ガーナの伝統と未来を描く“フラフラ・ゴスペルの女王”フローレンス・アドーニ、傑作デビュー作

Florence Adooni - A.O.E.I.U. (An Ordinary Exercise In Unity)

ガーナの新世代歌手の国際デビュー作『A.O.E.I.U.』

ガーナの“フラフラ・ゴスペル・クイーン”として注目される歌手フローレンス・アドーニ(Florence Adooni)による国際シーンにおけるデビュー作『A.O.E.I.U. (An Ordinary Exercise In Unity)』。伝統と革新の絶妙なバランス、力強いヴォーカルと洗練されたプロダクション、そして“団結”という普遍的なメッセージによって多くのリスナーに強いインパクトを残す作品となっている。

フローレンス・アドーニはこれまでいくつかの国際的なシングル・リリースによってその名声を高めてきた。今作ではそれらのシングル曲に新曲を加え、彼女の軌跡を辿りながら未来への想像を膨らませる楽曲群が7曲収録されている。

2021年にシングル・リリースされた(1)「Mam Pe’ela Su’ure」は、彼女の国際的な評価を確立した楽曲だ。フラフラ族の伝統音楽に特有の複雑なポリリズムによって構成されており、その洗練されたサウンドがアフロ・フューチャリスティックの快感を生み出す。

(1)「Mam Pe’ela Su’ure」

アルバムはフローレンス・アドーニの地元であるガーナ第二の都市であるクマシで、地元の若手ミュージシャンたちを中心に録音された。西アフリカの音楽と西洋音楽やジャズの融合から生まれたハイライフを基調とした洗練されたアンサンブルが、彼女の力強い声を支える。特筆すべきはフィンランド出身の鬼才ジミ・テナー(Jimi Tenor)のゲスト参加だ。彼は(2)「Vocalize My Luv」、(3)「A.O.E.I.U.」、(6)「Uh-Ah Song」でフルートやサックスを演奏し、フローレンス・アドーニの輝かしいキャリアに華を添えている。

(2)「Vocalize My Luv」

アルバムの核となるテーマは“団結(Unity)”。フローレンス・アドーニは、フラフラ族とアシャンティ族の文化的なギャップを埋める存在として自身のルーツを音楽に投影している。彼女の両親がそれぞれガーナの北部と南部の出身であることから、個人的なアイデンティティの探求が反映されており、異なる文化やジャンルがひとつになる“普遍的な試み”を体現する。

信仰心も重要な要素だ。ゴスペル出身のアドーニにとって、音楽は神への賛美であり、人々を癒し、励ます手段として捉えられている。今作では喜びや希望、愛といったポジティヴな感情が前面に出ており、特に(1)「Mam Pe’ela Su’ure」や(7)「Fo Yelle」ではその精神が強く感じられる。

(7)「Fo Yelle」

Florence Adooni 略歴

フローレンス・アドーニはガーナ南部のアシャンティ地方のクマシ(Kumasi)で生まれた。首都アクラに次ぐ大都市であるクマシはアシャンティ族1の文化が色濃く反映された都市だが、彼女のルーツはガーナ北部に住むフラフラ族2(Frafra people、またはGurunsiとも呼ばれる)にあり、母親を通じてこの文化を受け継いでおり、伝統的な音楽やダンス、そして強いコミュニティ精神はアドーニの音楽に大きな影響を与えている。

幼少期は経済的に恵まれない環境で育ったが、教会が彼女の音楽的才能を開花させる場となった。幼い頃から地元の教会でゴスペルを歌い始め、そこで彼女の力強い声と感情豊かな表現力が注目され始めた。学校教育を受けながらも、音楽への情熱が彼女の人生の中心となり、家族やコミュニティのサポートを受けてその道を歩んできた。

2011年に最初のアルバム『Ho Sanga La Pa’aya』をリリースし、これにより彼女の名がフラフラ・ゴスペル界に広く知られるようになった。2013年には『Da Sake (Never Give Up)』をリリースし、さらなる成功を収め、この時期にドイツ人プロデューサーのマックス・ヴァイセンフェルト(Max Weissenfeldt)と出会い、2014年からコラボレーションを開始することとなる。

彼女の活躍はやがて国際舞台へと広がっていった。
ガーナでの12人編成のスーパーグループとのツアーを通じて注目を集めるようになり、その後、ヨーロッパツアーに参加し、ジミ・テナー(Jimi Tenor)らと共演。2021年には初の国際リリースであるシングル『Mam Pe’ela Su’ure』を発表し、世界的評価を確立した。

Florence Adooni – vocals
Lizzy Amaliyenga – vocals
Patricia Adongo – vocals
Lovia Ayambire – vocals
Baby Naa – vocals
Emmanuella Baiden – vocals
Deborah Doe – vocals
Nat Owusu Ansah – vocals
Joseph Adusei Sarfo – vocals
Eunice Yenbila – vocals
Sarah Ayine – vocals
Jimi Tenor – tenor saxophone, flute, synthesizers, organ, vocoder
Pitches – trumpet
Johannes Böhmer – trumpet
E.T. Opoku – trumpet
Emmanuel Arthur – tenor saxophone
Ampadu Sax – tenor saxophone
Tricky Willie – trombone
Jason Liebert – trombone
Willie Opoku – trombone
Bastian Duncker – baritone saxophone
O’Neil Nyantakyie – flute
Akule Pepe – guitar
Abankroh – guitar
Emmanuel Tetteh – guitar
Dickson Boakye Danso – guitar
Muggy Whitefield – percussion, synthesizers
Joe Boateng – electric piano
K.S. – piano, electric piano, organ
Florian Klingler – organ
Evans Anokye – bass
King Fii LaPharo – synth bass, bass
Kofi Emma – kpanlogo drums
Appiah Danquah – kpanlogo drums
Butiq – drums, percussion
Taflis Man – drums, percussion
Ekow Alabi Savage – drums

  1. アシャンティ族(Ashanti、またはAsante)…西アフリカのガーナに住む主要な民族グループの一つで、アカン族(Akan)の主要なサブグループに属する。17世紀後半にクマシを首都とするアシャンティ王国が建国されたことで歴史の表舞台にあらわれた。 ↩︎
  2. フラフラ族(Frafra people、またはGurunsi)…アフリカ西部のガーナ北部やブルキナファソ南部に暮らす民族。歴史的に彼らは中央集権的な王国を築くことは少なく、小規模な村落単位で首長(Naba)を中心とした自治的なコミュニティを形成してきた。19世紀から20世紀初頭にかけて、イギリスやフランスの植民地支配下に置かれたが、彼らの伝統的な生活様式や文化は強く残っている。 ↩︎
Florence Adooni - A.O.E.I.U. (An Ordinary Exercise In Unity)
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