渦巻くグルーヴ、アナトリアン・サイケロックのŞatellites 新作
イスラエル・テルアビブを拠点とする6人編成のバンド、シャテライツ(Şatellites)が2ndアルバム『Aylar』をリリースした。今作は2021年リリースのデビューアルバム『Şatellites』で確立した70年代のアナトリアン・ロックに強い影響を受けた独創的なスタイルをさらに発展させた作品となっており、西洋音楽には見られない独特の音階や不穏に渦巻くサイケデリックなグルーヴが面白い作品だ。
シャテライツは紅一点のヴォーカルに、シンセ/キーボード、バグラマ1、ベース、ドラムス、パーカッションという編成。アルバムのタイトルはトルコ語で「月」のことで、今作ではその神秘的な魔力よろしく中東特有の微分音階や変拍子を効果的に用いた作編曲に加え、サウンドの後処理では古典的なリヴァーブやディレイ、パンニングを狂おしく濫用。中毒性の高いサウンドをこれでもかと降り注がせる。
ウネウネしたシンセとバグラマがユニゾンするコズミックなイントロに耳と脳を強烈に刺激される(1)「Tisladi Mehmet Emmi」から、もう彼らの世界観の虜になってしまうだろう。西洋音楽のスタンダードである十二平均律では完璧に再現することの不可能な微分音を用いた旋律が特徴的だが、リズムはロックやファンクに基底にあるため不思議と親しみやすい。というか逆に、無邪気で懐っこい笑顔で向こうから歩み寄ってくるような感覚さえ覚えるのだ。それは(2)「Gizli Ajan」でも顕著で、これが彼らŞatellites(綴りに注目。先頭の文字Şはトルコ語で「シュ」と発音。英語読みの「サテライツ」ではなく、トルコ語の響きを意識したバンド名である)の体質(?)なのだろう。
Şatellites は2020年に結成された。バンドのリーダーはバグラマ奏者のイタマール・クルーガー(Itamar Kluger)で、バンドは彼がトルコのカチカル山脈を旅する中でバグラマに出会った経験に端を発している。彼はサイケロック、ファンク、フォークといった音楽のみならず、アフロビート、サハラブルース、インディーロック、エレクトロニカ、ダブなど幅広く音楽的な造詣があり、それらをバンドに持ち込み独自の音楽性を生み出した。
近年、オランダ発のアルトゥン・ギュン(Altın Gün)やドイツ発のデリャ・ユルドゥルム&グループ・シムシェク(Derya Yıldırım & Grup Şimşek)といったアナドル・ロックのバンドが世界的にコアなファンの注目を集めているが、彼らŞatellitesもこの第一線に肩を並べる存在であることを今作で見事に証明した形だ。
Şatellites :
Rotem Bahar – vocal
Itamar Kluger – baglama
Tsuf Mishali – keyboards, synthesizer
Ariel Harrosh – bass
Lotan Yaish – drums
Tal Eyal – percussion
- バグラマ(baglama)…トルコやギリシャで広く弾かれる伝統的な撥弦楽器。この楽器を指して本来はより広義な「サズ」(saz)という名称で呼ばれることもある。 ↩︎