ヨルバ族の文化と現代UKジャズの革新的な融合。鍵盤奏者NIJIの新作『Oríkì』

NIJI - Oríkì

ロンドンのピアニスト、NIJI 自身のルーツを探求する革新的ジャズ

ナイジェリアにルーツを持つロンドン生まれのピアニスト/作曲家/プロデューサーであるニジ(NIJI)の 新作『Oríkì』がリリースされた。自身のルーツであるヨルバ族1の伝統文化や音楽をコンテンポラリー・ジャズと融合させる野心的なプロジェクトであり、その仕上がりはアフロビートの流れを汲みつつ、より現代的に洗練された彼の音楽的探求の優れた成果だ。

6年の歳月をかけて制作されたという今作にはモーゼス・ボイド(Moses Boyd)、アフロナウト・ズー(Afronaut Zu)といったロンドンを代表するアーティストや、NIJIと同じくヨルバにルーツを持つスポークンワード・アーティストのアデサヨ(Adesayo)らが参加。雄弁なホーン・セクションも特徴的な強力なエネルギーをもった音楽を展開している。

アルバムは全9曲で、打楽器奏者のモーゼス・オルカヨデ(Moses Olukayode)との共作である間奏曲的な(6)「Oba (Drum Break)」を除き全てNIJIの作曲。いずれも作編曲、演奏、ヴァイブスなど抜群の完成度で、伝統的なジャズを超えてグライム、アフロビート、ダブ、レゲエといったローカルな音楽要素を吸収しながら発展を続け、革新的な実験性とコミュニティ志向に根差した近年のUKジャズシーンの潮流にも乗る。NIJIのアプローチは、シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)やヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)らが開拓した道を継承しながら新たな文化的深みを加えるもので、アフロビートの祝祭的な響きが音楽の未来の可能性の拡がりを示している。

アフロナウト・ズー(Afronaut Zu)をフィーチュアした(3)「Jayé」

ヨルバ族のポピュラー音楽であるフジ2を現代的に再解釈した(5)「A13 Fuji」。トーキングドラムなど多様なパーカッションとブラスによる力強い競演が素晴らしいインストで、それを背後で支えるNIJIのオルガンとピアノも素晴らしい。

今作はNIJIの曾祖母であるマチルダ・タイウォ(Matilda Taiwo)へと捧げられており、彼のアイデンティティ、家族の歴史、そして故郷への回帰をテーマにした個人的な声明とも言える。(7)「Mata」はその曾祖母マチルダの愛称を曲名としており、ナイジェリア系イギリス人としてのNIJI自身の過去と未来をつなぐ象徴的人物として描き出されている。

NIJI 略歴

NIJIことニジ・アデレエ(Niji Adeleye)はイギリスのイーストロンドンで生まれ、ナイジェリア(ヨルバ族)のルーツを持つ家庭で育った。14歳のときに地元の教会でピアノを弾き始め、それからクラシックとジャズを学び、2009年に「ライジング・スター賞」を受賞。ロンドンのゴスペルやジャズシーンで活躍後、2015年にデビューアルバム『Better Days Ahead』をリリースし、iTunesのジャズチャートで3位を記録。

ハリー・スタイルズやストームジーのツアーに参加し、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでは専属オルガニストも務めた。2025年2月28日リリースの『Oríkì』は、彼が6年かけて制作したアルバムで、ヨルバ族に伝わるフジ音楽やアフロビートを融合させ、曾祖母へのオマージュとして高評価を得ている。

  1. ヨルバ族(Yoruba)…西アフリカのナイジェリア南西部やベナン東部、トーゴ北部に暮らす民族で、西アフリカ最大の民族集団のひとつ。 ↩︎
  2. フジ(Fuji)…ナイジェリアのヨルバ族のイスラム・コミュニティから生まれたパーカッション音楽。伝統的なヨルバの打楽器音楽や賛辞詩(オリキ)を基盤としつつ、イスラム教の影響を受けた旋律やリズムを取り入れ、特に1960年代から1970年代にかけて人気を博した。 ↩︎
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