その信念は現代ジャズをさらに進化させる。スウェーデンの革新派クインテット、Hederosgruppen

Hederosgruppen - Stilbrott

未来志向のジャズ・クインテット、Hederosgruppen 3rdアルバム

2020年にアルバム『Storstrejk』でデビューして以来、スウェーデンのジャズシーンで注目を集める5人組、ヘドロスグルッペン(Hederosgruppen)の3枚目のアルバム『Stilbrott』がリリースされた。彼らのスタイルはジャズの伝統に則りつつも独自の創造性や芸術性を追求するもので、ジャケットに描かれた“V字ジャンプの先駆者”であるスキージャンプ選手ヤン・ボークレブ1(Jan Boklöv)が象徴するような自由と革新性を賛美している。

彼らはデビュー以来一貫してクインテットのメンバー5人がそれぞれの創造性を発揮し、相互のシナジーによってより良い音楽を作るというポリシーを実現してきた。今作の11曲も例外ではなく、バンドのメンバーがそれぞれ楽曲を持ち寄り、実に多彩でユーモアに満ちた楽曲で、強固なアンサンブルを見せている。

(1)「Oreglerade älvar」はスウェーデン語で“規制されない川”という意味のタイトルで、明るく未来志向の音楽が、そのタイトルの通り信念と自由を理念とした彼らのマニフェストとして機能している。作曲はサックス/クラリネット奏者のアンドレアス・シェーグレン(Andreas Sjögren)。

(1)「Oreglerade älvar」

強く印象に残る、という点では(2)「Luftskepp」(飛行船)が最高だ。作曲はトランペット奏者のエミル・ストランドベリ(Emil Strandberg)で、実験的ながらキャッチーという一見相反する要素を巧みに組み合わせたアンサンブルへと見事に昇華している。

ジャンルの枠に囚われない、未来志向の音楽

アルバムのタイトルである「Stilbrott」はスウェーデン語の複合語で、直訳すると“スタイルの破壊”や“様式の逸脱”となる。なるほど、これはまさに前述のスキージャンプ選手ヤン・ボークレブが成し遂げたものだ。

今作では(3)「Vargvalsen」と(9)「Kniven」を作曲するバンドの発起人である鍵盤奏者のマーティン・ヘデロス(Martin Hederos)は、まさに近年のジャズシーンにおける革命家と評価されるエスビョルン・スヴェンソン・トリオ(Esbjörn Svensson Trio, あるいは e.s.t.)のベース奏者であったダン・ベルグルンドが率いるポストロック・ジャズバンドのトンブルケ(Tonbruket)の鍵盤奏者としても知られている。

この事実を思えば、彼がスウェーデン中から優れた同志たちを集め、e.s.t.の幻影を追うのではなく、その教えを胸に抱きながらも更にその先の未来へと進む音楽を創り上げようとするのは必然だ。

彼らのエネルギーは期待を超えている。あとは、彼ら自身がこれまでの活動の中で築いてきた自分たちに対する“革新的”というイメージをさらに打ち破り、さらに領域を拡げることができるかどうか、そこに注目したい。

(2)「Luftskepp」

Hederosgruppen :
Martin Hederos – keyboards
Konrad Agnas – drums
Josef Kallerdahl – contrabass
Andreas Sjögren – saxophone, bass clarinet
Emil Strandberg – trumpet

  1. ヤン・ボークレブ(Jan Boklöv, 1966 – )…スウェーデンのスキージャンプ選手。元々スキージャンプという競技はスキー板を平行に揃えないと美しくないとされる競技だったが、元々ガニ股だった彼は1985年頃から足をV字に開くフォームとなってしまった。このフォームは当時飛型点の減点対象となったものの、飛距離は大きく伸ばし、1988-89のシーズンで空中姿勢と着地が非常に安定するようになると、板を開いたこと以外による減点はほとんど無く、板を開いたことによって飛距離が出ることに加え飛型点でも他の選手を上回るようになり、このシーズンで5勝しスウェーデン人として初の総合優勝を獲得。その後彼自身は故障してしまい勝利を挙げることができず1993年に現役を引退の道を進むことになるものの、その出来事によって他の選手もV字ジャンプを取り入れ始め、1991年にはルール改正によって板を開くことも減点対象とならなくなり、1992年のアルベールビル五輪以降はV字ジャンプが完全に主流となった。 ↩︎

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