シャイ・マエストロ参加!トメル・コーエン新譜
イスラエル出身のギタリスト/作曲家、トメル・コーエン(Tomer Cohen)の2ndアルバム『Story of a Traveler』がリリースされた。深く哲学的・抒情的な感性でニューヨーク・ジャズ界で賞賛された前作『Not the Same River』(2023年)から2年、今作ではメンバーを一新しピアノにイスラエル・ジャズの第一人者であるシャイ・マエストロ(Shai Maestro)、そしてベースとドラムスにはベルギー出身の2人、シリル・オバーミュラー(Cyrille Obermüller)とゲルト=ヤン・ドレーセン(Gert-Jan Dreessen)を迎え、ジャズ、中東音楽、フォーク・ミュージックなどの影響を感じさせる素晴らしい演奏を聴かせてくれる。
アルバムは全曲がトメル・コーエンの作曲。タイトルの通り、彼の個人的な人生の旅の物語が反映されている。少しノスタルジックな(1)「Moving Pictures」では、18歳でニューヨークに移住した彼の郷愁と希望を活き活きと描き出す。シャイ・マエストロの貢献は素晴らしく、ソロではその微細な感情の揺れ動く様を見事に表現している。
ごく自然に中東音楽の伝統が織り込まれている点もとても魅力的だ。とりわけ(2)「Falafel」(ファラフェルとはひよこ豆やそら豆を潰してスパイスやハーブで味付けし、油で揚げたコロッケ状の中東の料理)では中東のリズムや音階とジャズが融合し、イスラエルのストリートフード文化を軽快に描写する。
トメル・コーエンの故郷イスラエルは、ユダヤ人やアラブ人に加え、ヨーロッパやアフリカからの移民が共存する多文化社会だ。(3)「A View」はこのような多文化混合の風景を描写しつつ、異なる文化が共鳴するような普遍的な美しさを持つ。米英のフォーク音楽の影響も感じられ、彼の文化的なルーツが広く開かれたものであることを示している。
表題曲である(5)「Story of a Traveler」の牧歌的な美しさは、彼自身の個人的な想いから離れ、より俯瞰して今作のテーマである“人生の旅”がすべての人々にとって普遍的なものであることを写し出す。人生はシンプルなようでいて、実は多くの起伏があるという事実を見事なソングライティングと演奏で表現している。
Tomer Cohen 略歴
トメル・コーエンは1998年イスラエル生まれのジャズ・ギタリスト/作曲家。幼少期から音楽に親しみ、父親の影響でギターを手にし、クラシックやフォークを学びつつ、10代でジャズに魅了される。イスラエルの音楽シーンで頭角を現し、18歳でニューヨークに移住。ニュースクール大学でジャズと現代音楽を専攻し、ピーター・バーンスタイン(Peter Bernstein)やギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)に師事しテクニックと感情表現のバランスを磨いた。
2023年にデビューアルバム『Not the Same River』をリリース。ニュージーランド出身のベース奏者マット・ペンマン(Matt Penman)や米国マイアミ出身のドラムス奏者オベド・カルヴェール(Obed Calvaire)との共演で注目を集めた。
中東音楽の要素とジャズのビバップを融合させた独自のスタイルが特徴的。現在もニューヨークを拠点に活動を続けている。
Tomer Cohen – guitar
Shai Maestro – piano
Cyrille Obermüller – double bass
Gert-Jan Dreessen – drums