稀代のピアニスト、シャイ・マエストロ 独自の美学に魅了される新譜

Shai Maestro - Human

シャイ・マエストロ ECM2作目はカルテット編成での美しすぎるジャズ

やはりこのピアニストは別格だ。

シャイ・マエストロ(Shai Maestro)、1987年イスラエル生まれ。若干19歳で同郷の世界的ベーシスト、アヴィシャイ・コーエンのトリオに大抜擢された逸材。
ECMデビューとなった前作『The Dream Thief』(2018年)も素晴らしかったが、『Human』と題された新作はそれをさらに超えてきた。全ての音に驚きや感動があり、今世紀最高のジャズ作品のひとつであることは間違いないだろう。正直、ここまでゾクゾクさせてくれるジャズは久々な感じがする。

ECM諸作が持つヨーロッパ・ジャズ特有の静謐さや叙情性はもちろん、シャイ・マエストロのルーツである中東音楽からもたらされた独特の旋律、シームレスに複雑に展開するよく練り込まれた楽曲群、そして4名の驚異的なアンサンブル…そのどれもが群を抜いている。

(2)「Mystery and Illusions」

それにしても、よくこのメンバーを揃えたな、と思う。
ドラムスのオフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya)は1994年生まれ、今もっとも注目されているイスラエル出身の音楽家。ベースのホルヘ・ローダー(Jorge Roeder)は1980年ペルー生まれで、ゲイリー・バートンのバンドなどで活躍している。で、ここまでは前作『The Dream Thief』のトリオの面々だ。

今作ではここに米国の気鋭トランペッター、フィリップ・ディザック(Philip Dizack)が加わっており、彼の存在感のある演奏がシャイ・マエストロの音楽をより一層の高みへと引き上げている。例えばシャイとフィリップのデュオで演奏される(4)「GG」でのトランペットとピアノの右手の完璧で繊細なユニゾン。(2)「Mystery and Illusions」での独擅場とも思える圧巻のソロ。トランペットの入ったこの作品を聴いてから、改めて前作を聴き返すと、欠けていたピースが見つかったような想いを得る。それほど、フィリップ・ディザックのトランペットはハマっている。

楽曲はデューク・エリントンのスタンダード(10)「In a Sentimental Mood」を除く全てがシャイ・マエストロのオリジナル。

シャイ・マエストロというピアニストはピアニッシモからフォルテまで、本当に美しい音を鳴らす。これは最高のジャズ作品であると同時に、ピアノという楽器のもっとも美しい響きを楽しめるアルバムでもある。

Shai Maestro – piano
Jorge Roeder – bass
Ofri Nehemya – drums
Philip Dizack – trumpet

Shai Maestro - Human
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