センバの巨匠パウロ・フローレスの新作
アンゴラのセンバの巨匠、パウロ・フローレス(Paulo Flores)が新作『CANÇÕES QUE FIZ PRA QUEM ME AMA』をリリースした。今作はアンゴラを象徴する音楽家として37年のキャリアを誇る彼の集大成的な作品で、祝祭的なエネルギーに満ち、ポジティヴな印象を受ける仕上がりだ。
アルバムの多くは4拍子・4つ打ちのダンサブルなリズムで、かつメロディアスで抒情的なメロディーや歌が印象的だ。これはセンバの典型的な特徴で、ここに彼の人生やアンゴラの社会や文化を反映した深いメッセージと感情を織り交ぜた直情的な楽曲が強い印象を残すものとなっている。
とりわけ(2)「LUZ E FÉ」は今作でも非常に印象的な良曲だ。短調でセンチメンタルなイントロ〜Aメロを経て長調のサビに至る場面は、ぱっと視界が開けるようである種の郷愁を強調する。
(3)「KIDI MUENE TU FUA MUENE」はアンゴラを代表する男性歌手ボンガ(Bonga)をフィーチュアしていることも大きなトピック。
個人的には(7)「ACORDEON」も心に刺さる。アコーディオンやパウロ・フローレスの枯れた声が醸す独特のサウダーヂが素晴らしい。
楽曲はセンバのリズムを基調に、キゾンバ、ジャズ、ブラジル音楽、さらにはカーボベルデ音楽の影響が感じられるアレンジ。
Paulo Flores 略歴
パウロ・フローレスは1972年にアンゴラの首都ルアンダに生まれ、幼少期をポルトガルのリスボンで過ごした。父親は音楽愛好家で、彼も幼い頃からセンバやブラジル音楽に親しんだ。
1988年、16歳でデビューアルバム『Kapuete Kamundanda』をリリースし、センバの伝統に現代的な感性を融合させたスタイルで注目を集める。以降、『Sassasa』(1990年)、『Canta Meu Semba』(1996年)など20枚以上のアルバムを発表し、詩的な歌詞と社会的なメッセージで知られている。代表曲はアンゴラ内戦(1975年〜2002年)の苦難を歌った「Inocenti」や、国の文化的な誇りを表現した「Njila Ia Dikanga」など。
パウロ・フローレスの音楽は、貧困、腐敗、家族の絆をテーマに、アンゴラの現実と希望を映し出している。これまでにブラジルのジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)やカーボベルデのティト・パリス(Tito Paris)とのコラボレーションなど、アンゴラを超えて主にポルトガル語圏(ルゾフォニア)に大きな影響力を持つ。
平和大使としての活動や、ルアンダでの低価格コンサートを通じて音楽を広く共有する姿勢も評価されている。教育と文化の発展を支援するプロジェクトにも関与し、アンゴラの若手アーティストを育成。現在もルアンダを拠点に、センバの伝統を守りつつ新たな音楽的可能性を追求し続け、国際的に広く知られるアンゴラ音楽の第一人者となっている。