抒情的な欧州ジャズからアルメニア音楽まで、美しく独創的な音を奏でるオランダの木管奏者新譜

Loek Van Den Berg - Seafarer

オランダの木管奏者、Loek Van Den Berg 新作『Seafarer』

オランダの新鋭サックス奏者/作曲家、ルーク・ファン・デン・ベルフ(Loek Van Den Berg)の新譜『Seafarer』が素晴らしい。楽曲は全てオリジナルで、サックス、トロンボーン、ピアノ、ベース、ドラムスのクインテット編成によって抒情的で美しいテーマ、高度なインタープレイ、幅広い音楽性をバランスよく兼ね備えた音楽体験を約束する。

高く評価されたデビュー作『Wayfarer』(2022年)から3年。今作はそのテーマをさらに深化させた続編と言えるだろう。前作のタイトル「wayfarer」は“徒歩による旅人”を意味するが、今作「seafarer」は“船の旅人”。海洋をわたり未知の大地に夢を馳せる人の、時に暴れ出しそうな興奮を、時に押し潰されそうな不安やどうしようもない郷愁といった心情を生々しく描き出している。(1)「Seafarer pt. 1」、(2)「Seafarer pt. 2」はその名を象徴する大作で、緻密に構成された楽曲の基幹部分と、想いのままに奏者の感情を吐露するアドリブのパートの組み込み方も驚くほど美しい。とりわけベルギー出身のトロンボーン奏者ネイサン・スルカン(Nathan Surquin)のソロを含む卓越した演奏は特筆すべきだ。

(2)「Seafarer pt. 2」のライヴ演奏動画

(3)「Bodrum Bolero」で活躍するのはダブルベースのカス・イスコート(Cas Jiskoot)。拍頭の低音だけでなく、裏拍で弾く中域での彼の音符が、この楽曲のまるで独創的な建築のような美しく強い印象の源となっている。

(4)「Attic Views」のテーマでの超絶的なパッセージは、わかりやすくかっこいい。縦横無尽に活躍する、技巧と抒情を併せ持つピアノのアセオ・フリーサッハー(Aseo Friesacher)は、オーストリアと日本にルーツを持つ。今作でもっともキャッチーなトラックで、最初に聴くべき1曲だ。

つづく美しいメロディーとコード進行を持った(5)「When We Weep」は地味だが、ルーク・ファン・デン・ベルフの豊かな感性を象徴する1曲だ。

(5)「When We Weep」

ラストの(8)「Languages of the Unheard」で、ルーク・ファン・デン・ベルフはドゥドゥク1を演奏する。ドゥドゥクの異国情緒あふれる音色と旋律は、本作に普通のヨーロッパ・ジャズにはない特異性をもたらし、その魅力を最大化している。

Loek Van Den Berg 略歴

ルーク・ファン・デン・ベルフは1996年オランダ・ナイメーヘン生まれ。幼い頃から音楽を作ることに興味を持ち、2014年からロッテルダム音楽院でジャズを学び、2019年に学士号を取得している。在学中から様々なバンドで演奏を始め、アントン・グッドミット指揮の国立ジュード・ジャズ・オーケストラや、ヴィンス・メンドーサ、ジュールス・バックリー、挾間美帆指揮のジョン・メトロプールとのツアーなどに参加した。

楽器はアルトおよびソプラノサックスを主に演奏し、アルメニアのダブルリード楽器ドゥドゥクも操る。彼は自身の音楽を“物語を語る手段”と捉え、感情や風景を音で表現することに定評がある。

2022年にデビューアルバム『Wayfarer』をリリース。このアルバムはジャズ、ネオクラシック、ワールドミュージックの要素を融合させた「ビジュアル・ミュージック」として高く評価され、エジソン・ジャズ賞の「最優秀新人賞」を受賞した。

Loek van den Berg – alto saxophone, soprano saxophone, duduk
Nathan Surquin – trombone
Willem Romers – drums
Cas Jiskoot – double bass
Aseo Friesacher – piano, vocals

  1. ドゥドゥク(duduk)…5世紀頃から存在していたとされるアルメニアのダブルリードの木管楽器。アルメニアのドゥドゥクとその音楽は、2008年にUNESCOの無形文化遺産に登録されている。 ↩︎
Loek Van Den Berg - Seafarer
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