ニタイ・ハーシュコヴィッツ&リジョイサーの新プロジェクト
アヴィシャイ・コーエン・トリオへの参加で知られ、イスラエルの現代ジャズ・シーンを拡張する第一人者である鍵盤奏者ニタイ・ハーシュコヴィッツ(Nitai Hershkovits)と、新進気鋭レーベル「Stones Throw」を主催するプロデューサー/マルチ奏者リジョイサー(Rejoicer)による新しいプロジェクト、シネマ・ロイヤル(Cinema Royal)が始動し、最初のアルバム『Cinema Royal』がリリースされた。
二人はもともとアピフェラ(Apifera)というエレクトロニック・ジャズグループで強力なコラボレーションをしていたが、今作ではコンセプトを新たにし、シンセサイザーではなく生ピアノを音楽の中心に据え、アンビエントの領域にアプローチする新鮮なジャズを展開している。
ドラムのループにピアノの即興を重ねるというアイディアは、2018年に公開されYouTubeで750万回以上の再生を得た「Flyin’ Bamboo」を発端としている。本作はそこから10年近い年月を経て、再びドラムループの上でピアノの自由な即興を行うという意欲的な発想を形にしたものだ。そしてその完成形は驚くべきもので、イスラエルの伝統的な音楽、ラヴェルやサティなど印象派のクラシック、アフリカの音楽、さらにはサン・ラのようなスピリチュアルなジャズの影響を受けたアンビエントだが心を揺さぶるという相反する概念が同居する。
タイトルの通りに“シネマティック”な音楽を目指した作品だが、ニタイ・ハーシュコヴィッツのなピアノの即興の芸術性は映像表現を上回り、音楽でありながら視覚にも訴えかけてくるほどに雄弁だ。物語の幕開けとなる(1)「The True North」、つづく管楽器が加わった(2)「Food Bowl」を聴けば、この二人が生み出す魔法のような相乗効果によって仕立てられたサウンドに夢中になってしまうだろう。
アルバムのサウンドは終始冷静で控え目だが、集中して聴き込むほどにその秘められた感性の豊かさに対する感嘆符が降り注ぐ。とりわけニタイ・ハーシュコヴィッツのピアノに表れる西洋のクラシック、中東の伝統音楽、そしてエチオ・ジャズの音階は今作の重要な根幹だ。それらがジャズの語法の中でそれとはなかなか気づかないように巧みに取り入れられ、細部までこだわり抜かれた現代的なリズムの上でおそろしく躍動する。
Nitai Hershkovits – piano, keyboards, guitar, clarinet, accordion
Rejoicer – bass, guitar, drum programming
iogi – strings (1)
Daniel Dor – cymbal (2, 3, 7)
Eyal Talmudy – tenor saxophone (2, 4)
Yonatan Voltzok – trombone (2, 4)
Assa Cook – Trumpet (2, 4)
Uzi Ramirez – mandolin (3, 5)