豊かな叙情を湛えるオリヴィア・トゥルマー ピアノ弾き語り作
ドイツ出身のSSW/ピアニスト、オリヴィア・トゥルマー(Olivia Trummer)の新譜『Like Water』がリリースされた。プロデューサーはこれまでにエリック・クラプトンやシンディ・ローパー、ランディ・ニューマン、スティーヴ・ウィンウッドらを手掛けた米国の伝説的プロデューサーであるラス・ティテルマン(Russ Titelman)。
アルバム収録曲はすべてオーヴァーダブなしのオリヴィア・トゥルマーのピアノ弾き語りで演奏される。オリジナルを中心に、彼女のジャズやクラシックへの深い造詣が顕著に表れ、フォーク・ミュージック的素朴さと親しみやすいヴォーカルも絶妙にマッチした極上の音楽が展開される。アルバムのタイトルは水の適応性を想起させ、一貫性と真実性を失うことなくさまざまな音楽のスタイルや文化の間を流れ、浸透する彼女の才能を象徴している。
(1)「My Baby Just Cares For Me」のピアノのイントロから、すぐに傑作を確信できる内容だ。柔和で美しく、どことなく南米のオーガニックな新世代音楽家たちを思わせるような純朴さ・陽気さが溶け込む。アレンジと演奏もシンプルなようでいて練り込まれており、非常に聴きごたえがある。
ジェローム・カーン(Jerome Kern)作曲のジャズ・スタンダード(3)「I’m Old Fashioned」はバッハ風のアレンジが新鮮で印象的だ。
(6)「Watching The Moon」はベートーヴェンの「月光ソナタ」のカヴァーで、オリヴィアの音楽的ルーツがクラシックのピアニストであることを思い出させる。中盤部までは原曲のスコアに忠実だが、それ以降はオリヴィアによる独自のソングライティングが融合するという構成になっている。
スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)初期の名曲のカヴァー(7)「You Are The Sunshine of My Life」も素晴らしい。ピアノと声のみで表現される独創的な、かつ丁寧なアレンジが意外なほどに原曲の瑞々しさを際立たせている。数多くのカヴァーが存在する曲だが、その中でももっとも創造的な作品となっているのではないだろうか。
ラストの(12)「Somewhere」はレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)による『ウエスト・サイド物語』主題歌からのジャズ・スタンダード。
Olivia Trummer 略歴
オリヴィア・トゥルマー(オリヴィア・トルンマー、オリヴィア・トゥルメール、オリヴィア・トレマーといったカタカナ表記も)は1985年ドイツ南西部のシュトゥットガルト生まれ。音楽一家に育ち、4歳でクラシックピアノを始め、すぐに即興や作曲にも情熱を注ぐようになった。シュトゥットガルトの音楽大学でジャズピアノとクラシックピアノの両方を修了し、その後ニューヨーク市のマンハッタン音楽学校で修士号を取得している。
当初は作曲家兼ピアニストだったが、20代の頃にピアノを弾きながら歌うようになり、完全なインストゥルメンタルである初期の2枚のアルバムを除く全ての作品で彼女の歌を聴くことができる。出世作は『Poesiealbum』(2011年)。カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)のブラジル音楽インスパイアドのプロジェクト、カイピ(Caipi)では紅一点のシンガー兼鍵盤奏者として活躍した。
Olivia Trummer – piano, vocal