北インド古典音楽に根差した実験的現代フュージョン。サロード奏者アヴラ・バネルジー“旋律の波”

Avra Banerjee - Swar Lahari

北インド古典×フュージョン。Avra Banerjee『Swar Lahari』

伝統的な北インドの古典音楽を軸にしながら、西洋音楽やジャズを取り入れた独自の音楽観で知られるインド(バーラト)出身のサロード1奏者/作曲家アヴラ・バネルジー(Avra Banerjee)が新譜『Swar Lahari』(旋律の波)をリリースした。多数のインド古典音楽界の著名ミュージシャンとのコラボレーションを特徴としており、グローバルな感覚とも呼応する現代的な作品に仕上がっている。

(1)「Harmony of Rhapsody」は8.5/4拍子2という珍しい拍子の楽曲で、グラミー賞にもノミネートされたバンスリ(竹製フルート)の巨匠シャシャンク・スブラマニヤム(Shashank Subramanyam)と、幼少期からステージで演奏を始め“インド古典ヴァイオリンの新たな王”と呼ばれたヴァイオリン奏者アンビ・スブラマニアム(Ambi Subramaniam)をフィーチュアしている。楽曲はインドらしい“調和したカオス”とも呼びたくなる精神的自由さや感情の昂りが全編にあり、なんとも言えず素晴らしい。

(1)「Harmony of Rhapsody」

(2)「Love’s Lullaby」ではコルカタ出身のサロード奏者アプラティム・マジュムダール(Apratim Majumdar)をフィーチュア。タブラがリズムを刻み、ストリングスやシンセパッドによって空間を拡張させたサウンドの中で漂うようなサロードは、まるで悠久の孤独のようだ。

(4)「Harmonious Flow」もエキサイティングだ。サロード奏者プラシェーク・ボルカル(Praashekh Borkar)と、サーランギ奏者ムラド・アリ・カーン(Murad Ali Khan)の掛け合い、それを強靭なタブラで盛り立てるシヴァクマール(Sivakumar)らによる、わずか2分の中に凝縮された濃密な音楽体験。

3人のサロード奏者による競演(5)「Triraga Confluence」は今作のハイライト。タイトルは“3つのラーガの合流”の意味で、アヴラ・バネルジー、プラシェーク・ボルカル、そしてプラティーク・シュリヴァスターヴ(Pratik Shrivastava)の3人のサロード奏者が3つの異なるラーガ(インド古典音楽の旋法)を融合させるという実験的な楽曲で、3人それぞれが似たフレーズを微妙に異なる旋法で弾いており、それだけではマニアックになりすぎるところを超絶的なタブラを披露するズヘブ・アフメド・カーン(Zuheb Ahmed Khan)と、今作の楽曲を横断的に支えるキーボード奏者タマル・カンティ・ハルダル(Tamal Kanti Halder)とのジャズ・フュージョン的アンサンブルでポピュラーに仕立てている。

  1. サロード(sarod)…北インド古典音楽ではシタール(sitar)と並び重要な弦楽器。フレットを持たない。中央アジアおよびアフガニスタンで生まれた楽器ラバブ(rubab)と近縁とされている。 ↩︎
  2. 8.5/4拍子…数学的にはより一般的な表記である17/8拍子と同義だが、インド古典音楽のティーンタール(16拍)やエクタール(12拍)のようなターラに、追加のビートや変則的なグルーヴが加えられることがある。「8.5/4」は、基本の8拍に半拍(1/2拍)を追加した変形ターラであることを表現しているようだ。 ↩︎
Avra Banerjee - Swar Lahari
Follow Música Terra