ドン・グローリ新作『Paper Can’t Wrap Fire』
オーストラリア出身、現在はロンドンを拠点とするマルチ奏者/作曲家ドン・グローリ(Don Glori)の新作『Paper Can’t Wrap Fire』。アルバムは英国の独立系レーベルであるMr Bongoからリリースされており、ジャズやファンク、ネオソウル、サンバなどに影響された洗練されたサウンドと、多様な文化的背景を持った彼の個性が絡み合った、至極のグルーヴに満ちた傑作となっている。
アルバムのタイトル『Paper Can’t Wrap Fire』(紙は火を包めない)は、中国のことわざ「纸包不住火1」に由来し、「真実を隠匿することはできない」という意味を持っている。彼はこのテーマをアルバム全体に織り交ぜ、人生で直面する“仮面”──アルバムのジャケット・アートがそれを象徴している──や、社会的構造について言及。とりわけ(1)「Disaster」はアーティストを取り巻く搾取的な構造を批判し、(2)「Brown Eyes」ではマイノリティの経験やコミュニティの重要性を描き出している。
アルバムには“文化の交叉点”である彼の故郷ナーム2(メルボルン)のミュージシャンが多数参加している。卓越したトランペット奏者オードリー・パウネ(Audrey Powne)、サックス奏者ジョシュア・モシェ(Joshua Moshe)、さらにブラジル出身の打楽器奏者アルシデス・ネト(Alcides Neto)の参加も重要だ。
ヴォーカリストのM・L・ホール(ML Hall)とビアンカ・キリアコウ(Bianca Kyriacou)をフィーチュアしたソウルフルな(3)「Flicker」は、内省の末に生まれた真実と明晰さを表現。(8)「Ron Song」はブラジリアン・ジャズやボサノヴァに強く影響されており、軽快なリズム、ドン・グローリが弾くガットギター、スキャットなどが印象的な清涼感のある楽曲となっている。ラストの(9)「Saturn’s Return」は瞑想的なスピリチュアル・ジャズ。
Don Glori 略歴
ドン・グローリの芸名で知られるゴードン・リー(Gordon Li)はオーストラリア・ナーム(メルボルン)の中国系の家庭に生まれ、幼少期から多文化的な環境の中で音楽に親しんだ。ナームの活気ある音楽シーンが彼の音楽的基盤を形成し、少年期にジャズやブラジル音楽に魅了され、ベース、キーボード、ギターなどの楽器を習得。マルチインストゥルメンタリストとしての才能を早くから発揮した。
ゴードン・リー名義で『A View From the Bungalow』(2022年)など何枚かの作品を、そして名前のアナグラムであるドン・グローリ名義でも『Dawn Calling』(2020年)などの作品を発表し、ニュー・ジャズが盛んなメルボルンのシーンで注目される存在となっている。