米国シカゴのシンガーソングライター/コルネット奏者のベン・ラマー・ゲイ(Ben LaMar Gay)が新譜 『Yowzers』をリリースした。アルバムのタイトルは驚き、興奮、喜び、あるいは時にはショックや不快感といった強い感情を表す間投詞で、日本語でいうと「おお!」「やべー!」といったニュアンスを持った英語のスラング。彼によると、このタイトルは現代社会の不条理や、環境的・社会的な課題に直面したときの感情を表現したものだという。
今作は随所にフリージャズやスピリチュアル・ジャズからの深い啓示が顕著に表れている。
生々しいライヴの感覚をアルバムに閉じ込めようと、カルテット編成の楽曲((2)「The Glorification of Small Victories」、(3)「There, Inside the Morning Glory」、(6)「I Am (Bells)」、(10)「Cumulus」ではシカゴのパリセード・スタジオ(Palisade Studios)で4人で小さな輪をつくって座り、その演奏を録音するという手法がとられた。
(1)「Yowzers」はシンプルだが不協和音を孕んだ3コードのピアノと、魂を揺さぶるクワイアが印象的だ。歌詞は「Ain’t gon’ snow no more / Rain gon’ pour and pour / Fire don’t stop no more」と、現代の社会的・環境的課題を象徴するブルース的なマントラを繰り返す。ゲイはこの曲について、「ユーモアとホラーの交差点を観察して生まれた言葉」だと語り、現実の不条理に対する深いため息と驚嘆の叫びを表現している。
(5)「for Breezy」は2022年に39歳の若さで亡くなった女性トランペッター、ジェイミー・ブランチ(Jaimie “Breezy” Branch)に捧げられた哀愁を帯びたエレジー。エレクトリック・ピアノ、ブラシのドラムス、コルネットとフルートが織りなす温かみのあるサウンドが特徴。
(8)「John, John Henry」はアメリカの伝承歌を基にした楽曲で、伝統的なバラードを現代的な文脈で再解釈。推進力のあるドラムスとシンセサイザーのパターン、ソウルフルなコーラスが特徴で、レイシズムや資本主義への批判と黒人文化の尊厳を力強く表現している。
(10)「Cumulus」は前述のようにカルテットでライヴ録音された今作中最長(7:02)の楽曲で、スピリチュアル・ジャズと現代的な作曲技法を組み合わせた、ゆったりとした旅を想起させる。
Ben LaMar Gay 略歴
ベン・ラマー・ゲイはアメリカ合衆国シカゴ出身の作曲家/即興演奏家/マルチ楽器奏者/音楽民俗学者。とりわけコルネット奏者として知られている。
幼少期からコルネットを始め、ジャズ、ヒップホップ、ハウス、ブルースなど多様なジャンルに触れた。シカゴ前衛ジャズの拠点である非営利音楽団体AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)に影響を受け、実験的かつコミュニティ主導の音楽創作を追求。AACMの先人たち、特にフィル・コーラン(Philip Cohran)やジョージ・ルイス(George Lewis)から学び、自由な表現と文化的対話を重視する姿勢を醸成した。
2000年代初頭からシカゴの音楽シーンで活動を開始。トランペッターとして、マイク・リード(Mike Reed)やニコール・ミッチェル(Nicole Mitchell)のプロジェクトに参加。2010年代にはブラジルに滞在し、トロピカリアやサンバの影響を受け、ンゴニやパーカッションを取り入れた独自のスタイルを確立した。
2018年にInternational Anthemからデビュー作『Downtown Castles Can Never Block The Sun』をリリース。このアルバムは過去の未発表音源を編集したもので、ジャズ、フォーク、エレクトロニカを融合させた革新的なサウンドで注目を集めた。2021年の『Open Arms to Open Us』では、ポリリズミックな構造とスピリチュアル・ジャズの要素を深化させ、批評家から高い評価を受ける。2022年の『Certain Reveries』では、即興性を強調したミニマリスティックな仕上がりが話題となった。
Ben LaMar Gay – cornet, voice, synth, bells, diddley bow, percussion, programming, manipulations
Tommaso Moretti – drums, percussion, voice
Matthew Davis – tuba, piano, bells, voice
Will Faber – guitar, ngoni, bells, voice
Guests :
Rob Frye – flute, bass clarinet
Ayanna Woods – voice
Tramaine Parker – voice
Ugochi Nwaogwugwu- voice