中東ルーツの新鋭ドラマー、ナダフ・シュニールソンのデビュー作
中東にルーツを持つイギリス・ロンドン出身のドラマー/作曲家ナダフ・シュニールソン(Nadav Schneerson)が、7人編成のバンドを率いて録音したデビュー作『Sheva』が面白い。多様かつ優れた若手ジャズ・アーティストを輩出し続けるトゥモローズ・ウォリアーズ(Tomorrow’s Warriors)1出身の彼は、文化的多様性の坩堝である同団体で得た多くの学びと、ユダヤ人である自身のルーツを融合させ、熱狂的なジャズ・アンサンブルを創り上げた。
「音楽業界で何かが起こっていても、流行っているものがあっても、それが自分ではないなら、私はそれに取り組もうとは思わない」と明言するナダフ・シュニールソンの音楽は、若手のデビュー作ながらすでに揺るぎない自己の表現を確立しているように思える。力強い意志を示すようなドラミングで始まる(1)「Yalla」は、トルコにルーツを持つエキン・オイケネル(Ekin Öykener)が弾くウードや、祝祭的な3管が奏でるオリエンタルな旋律によってインパクト絶大な彼の自己紹介として成功している。
アルバムのタイトルはヘブライ語で「7」の意味だ。「7」はユダヤ教における神聖な数字とされ、さらに7拍子のタイトル曲(2)「Sheva」、アルバムの7曲の構成、7人のバンド編成などを象徴する。全曲がナダフ・シュニールソンのオリジナルもしくはバンドメンバーとの共作で、ドラマーのアルバムではあるが彼が16歳から本格的に学び始めたというピアノを用いて作曲されている。
(3)「Juju Man」は、ロンドンのシーンで活躍するアフロナウト・ズー(Afronaut Zu)をゲスト・ヴォーカリストとしてフィーチュア。楽曲はスピリチュアル・ジャズの流れを汲むもので、祈りに似た深い精神性を感じさせる。
サルタン・スティーヴィンソン(Sultan Stevenson)のソロピアノによる間奏曲(4)「Interlude (Sultan’s Taxi)」を挟み、(5)「House of Pillars」や今作最長10分弱の(6)「Negev」、(7)「Stampede」ではトロンボーン奏者ウィル・ヒートン(Will Heaton)が操作するライヴ・エフェクトも非常に効果的で、アルバムが雄弁に語る物語に絶妙なアクセントを加える。
Nadav Schneerson – drums
Sam Warner – trumpet, flugelhorn
Will Heaton – trombone, live FX
James Akers – tenor saxophone
Sultan Stevenson – piano, Rhodes
George Richardson – double bass
Ekin Öykener – oud
Guest :
Afronaut Zu – vocals (3)
- トゥモローズ・ウォリアーズ(Tomorrow’s Warriors)…1991年に設立された英国のジャズ教育・才能育成組織。特に“黒人や女性、経済的またはその他の事情で音楽業界でのキャリアを追求する機会を奪われている人々”に焦点を当て、若手ミュージシャンに無料のトレーニングやパフォーマンスの機会を提供し、結果として現代ジャズシーンで活躍するアーティストを多数輩出している。 ↩︎