フレッド・ハーシュ、ECM3作目は初のピアノトリオ作
これほど心が洗われるような音楽は、なかなかない。
“ピアノの詩人”ことフレッド・ハーシュ(Fred Hersch)による、ECM第3作目『The Surrounding Green』。ベースのドリュー・グレス(Drew Gress)もドラマーのジョーイ・バロン(Joey Baron)も長年のコラボレーターだが、このピアノトリオ編成でのスタジオ録音は初だという。選曲もオリジナルとカヴァーでだいたい半分ずつとバランスが取れており、万人にお勧めできるジャズ・ピアノトリオの作品であることは間違いない。
3人の演奏が始まれば、一瞬で詩的な音の語らいの世界に包まれる。思索的に紡がれてゆくピアノの旋律と柔らかな和音、低音を支えながらも空間を広く使い自由に遊ぶダブルベース、ライドシンバルやハイハットを中心に最低限の音でリズムを彩るドラムス。美しく調和しながら軽やかにスウィングする音楽はまさに至高。繊細なようでいて情熱的な推進力を秘め、人生を素晴らしいものだと気づかせてくれるフレッド・ハーシュは、やはり最高の“詩人”なのだろう。
(2)「Law Years」はオーネット・コールマン(Ornette Coleman, 1930 – 2015)の作曲。ジョーイ・バロンのドラムソロで始まるが、彼のバスドラムは高めにチューニングされ、ほとんど聴こえないくらいのミックスとなっている。この哲学的ともいえる音響のバランスが、アルバム全体のリラックスした印象に大きな影響を与えているように感じた。
(4)「Palhaço」はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti, 1947 – )の代表曲。もともと私が大のジスモンチ好きなこともあるが、今作の中でも最高の演奏はこのトラックだと断言したい。ECM史に輝くジスモンチとチャーリー・ヘイデン(Charlie Haden, 1937 – 2014)の名演『In Montreal』での、うまく言い表すことのできない“あの感じ”──パリャーソ(ピエロ/道化師)という言葉に込められた意味を音楽で完璧に表現したあの感覚──を再現するような素晴らしい演奏が展開される。
そして、チャーリー・ヘイデンの代表曲「First Song」も収録されている。長めのベースソロに導かれた3人の演奏はどこまでも幽玄で、即興音楽の美学を湛える。
Fred Hersch – piano
Drew Gress – double bass
Joey Baron – drums