André Manoukian 2025年新作『La Sultane』
前作『Anouch』(2022年)で、アルメニア人の記憶に深く刻まれたジェノサイドの悲劇の歴史を、その被害者であった祖母の体験を通して生々しく描き出し芸術的な音楽物語へと昇華させたフランスのピアニスト/作曲家アンドレ・マヌーキアン(André Manoukian)の新作『La Sultane』。ジャズ・ピアノトリオを中心とし、東洋のパーカッションやストリングスなども交え、国境のない地平を描き出してゆく。
今作は再び彼のアルメニアのルーツを深く紐解いてゆくものだ。タイトルは母親たちが娘に対して愛情を込めて呼んでいた「Ma Sultane」(私のスルタン = 王女)から着想を得ており、アルメニアの母親たちの娘への溢れる愛を象徴。収録された楽曲にはアルメニアの伝統的な音階や、さらに国境を超えてインドの打楽器タブラなども登場し、東欧/東洋から西洋音楽への独特のアプローチが新鮮で魅力的だ。
(1)「La Sultane」と(10)「Oror – Lullaby for the Unborn」の2曲にはアルメニアを代表する若手女性歌手アルピ・アルト(Arpi Alto)ことアルピネ・ミカエリ・テル=トロシアン(Arpine Mikaeli Ter-Petrosyan)が参加。ボサノヴァのカヴァーなどで人気を博した彼女だが、ここでは鎮魂歌のような慎ましさで美しく深みのある歌声を聴かせてくれる。
今作は、アンドレ・マヌーキアンのアルメニア人としてのルーツをたどる旅の続編であり、ジャズ、クラシック、そして伝統的なアルメニアや東洋の音楽様式を融合した素晴らしい作品だ。
彼は「西洋音楽の歴史とは、東洋性を脱ぎ捨てていく過程でもあった」と語っており、現代ジャズやクラシックに“東洋の旋律”を再び取り戻すことを目指している。
André Manoukian 略歴
ピアニスト/作編曲家/プロデューサーのアンドレ・マヌーキアンは1957年フランス・リヨン生まれ。2002年から2017年の間にフランスのポップアイドル・オーディション番組『Nouvelle Star』の審査員として出演し人気を博した。
7歳のときにピアノを始め、米国バークリー音楽大学でジャズや作曲を学び、帰国後は作編曲家/ピアニスト/プロデューサーとして様々なアーティストと活動をし、ミシェル・ペトルチアーニ、リシャール・ガリアーノ、シャルル・アズナヴールといった著名な音楽家とも仕事を共にしている。
André Manoukian – piano
Mosin Kawa – tabla
Gilles Coquard – double bass
Guillaume Latil – cello
Anissa Nehari – cajon
Orchestre Appassionato – orchestra
Arpi Alto – vocal (3, 10)