Delírio Cabana セルフタイトルのデビューEP
ブラジル・アマゾナス州の州都マナウスから、面白い4人組が現れた。2025年10月にデビューEP『Delírio Cabana』をリリースしたばかりのデリーリオ・カバーナ(Delírio Cabana)だ。
メンバーはマルチ奏者/作曲家でグループの音楽面の中心的存在である男性SSWブルーノ・マットス(Bruno Mattos)、2025年にEP『RUMO』をリリースしている男性SSWのナンド・モンテネグロ(Nando Montenegro)、2020年にアルバム『Sinuose』をリリースしている女性SSWルリ・ブラガ(Luli Braga)、そしてアマゾナス連邦大学(UFAM)で音楽の学位を取得している女性シンガーのガブリエラ・ヂアス(Gabriella Dias)という才能溢れる4人の若者。グループは2023年にマナウスからパラー州のアウテル・ド・ション(Alter do Chão)への旅の途中で生まれ、2週間のキャビンでの共同生活中に創作が行われたという。
アルバムは”愛情、肉体、アマゾンの魔術”を根源とし、夜から明け方への変化、伝統的なリズムの再訪などからのインスピレーションを扱う。アマゾンの伝統音楽であるカリンボー(carimbó)、ブレーガ(brega)、ショッチ(xote)、ショリーニョ(chorinho)などの要素を取り入れ、現代MPB、ポップ、ラテン音楽とブレンド。地域の伝統、パーカッシヴな遺産、アマゾンの水と故郷の味の記憶を融合させた革新的なサウンドと評されている。
EPは先行シングルとしてリリースされたナンド・モンテネグロ作曲の(1)「Tempero」で幕を開ける。アマゾンの伝統音楽のリズムと現代的で洗練されたMPBを重ね合わせるというグループのヴィジョンを体現した楽曲となっており、重層的なパーカッション、4人の声、ブラスのアレンジなどが印象的だ。
ブルーノ・マットスと友人の音楽家ハイドウ・サルダーニャ(Raidol Saldanha)の共作であるブレーガ1調の(2)「Ânima」は、ユング2が提唱した「元型3」のひとつであるアニマ(男性の無意識内に存在する女性的な側面のこと)をテーマとしており、服従や欲望について掘り下げ、男性と女性の間の流動性を探求している。
EPに収録された6曲はいずれも3分程度で、テンポよく次の場面へと移り変わってゆく。
(3)「Guaraná」は4人の共作としてクレジットされており、カイオ・ブリット(Caio Britto)のチェロと ヂエゴ・アレッサンドロ(Alessandro)のヴァイオリンをフィーチュア。アマゾンの素朴なダンス音楽であるカリンボー4を軸としながら、奥行きのあるハーモニーで夜の横断を歌う。
(4)「Gengibirra」には鍵盤奏者のルーカス・メスキータ(Lucas Mesquita)が参加。ボレロ=ブレーガ(bolero-brega)のスタイルで恋愛関係の破綻と、それによって傷ついた心の回復を歌う。
(5)「Quando Você Vier (Tucumã)」にはアコーディオン奏者のダニルソン・サンパイオ(Danilson Sampaio)が参加。サウダーヂを感じさせるショッチのリズムで日常の中の小さな想いを歌っている。
ラストの(6)「Chove Não Molha」は祝祭的だ。たとえ雨が降っても踊ろう、私たちのショーロに悲しみはない、というメッセージがポジティヴな生き方を教えてくれる。
Bruno Mattos – bass, nylon-string guitar, electric guitar, keyboard
Nando Montenegro – vocal
Luli Braga – vocal
Gabriella Dias – vocal
Tércio Macambira – percussion
Marcelo Martins – trumpet
Francirbone – trombone
Crhistofer Santos – saxophone
Caio Britto – cello
Diego Alessandro – violin
Lucas Mesquita – keyboard
Danilson Sampaio – accordion
- ブレーガ(brega)…ブラジル北部の大衆歌謡の一形態。bregaとは本来「陳腐な」「ダサい」といった意味のスラング。 ↩︎
- カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung, 1875 – 1961)…は、スイスの精神科医・心理学者。ブロイラーに師事し深層心理について研究、分析心理学(ユング心理学)を創始した。 ↩︎
- 元型(アーキタイプ)…ユングが分析心理学における概念として提唱。人類すべてに共通する無意識の心のパターンであり、神話、夢、おとぎ話などに繰り返し現れる象徴的イメージの元となる心的構造。 ↩︎
- カリンボー(carimbó)…先住民とアフリカ系移民の音楽が混合することによってできた祝祭音楽。 ↩︎