SSWバジ・アサド、キャリア集大成的新譜『Parte de Tudo Isso』
2024年にレニーニ(Lenine)とマルコス・スザーノ(Marcos Suzano)によるブラジル音楽史に輝く名盤『魚眼』(1993年)をトリビュートして世間を驚かせたギタリスト/SSWのバジ・アサド(Badi Assad)が、またまた最高のクオリティの新譜『Parte de Tudo Isso』を届けてくれた。MPB1の大物たちも参加した今作は、高名なクラシックギタリストである二人の兄とはまた異なる音楽表現の道を歩む彼女のキャリアの集大成的な作品に仕上がっている。
(1)「Você, Cadê?」はバジ・アサドとアドリアーナ・カルカニョット(Adriana Calcanhotto)との共作。わずか3分弱の曲だが、バジ・アサドによるギターと歌を中心に濃密な表現力で演じられる曲はとても引力が強い。
(2)「Na Vida do Mar」にはレニーニの盟友であり、モダン・パンデイロの先駆者マルコス・スザーノ(Marcos Suzano)がゲスト参加。楽曲はバジ・アサド作曲だが、明らかにレニーニを意識したブラジリアン・ロックとなっており、マルコス・スザーノのパンデイロから繰り出される強靭なビートがその印象を確固たるものとする。
(3)「Ê Mulher」はシコ・セーザル(Chico César)作曲。今作はバジ・アサドと同世代である1960年代生まれの音楽家の作品が数多く取り上げられており、この世代が生み出したMPBを振り返り、その多様な側面に光を当てるプロジェクトであることが窺える。
(5)「A Bordadura Serena」は90年代を象徴するブラジリアン・ロックのレジェンド、ペドロ・ルイス(Pedro Luis)との共作で、ギターとピアノを中心とした親密なバラードを聴かせてくれる。
ラストの(10)「Tristeza, Nem Vem」はゼリア・ドゥンカンとアナ・コスタ(Ana Costa)の共作曲。今作中もっともジャジーなテイストのアレンジとなっており、コアバンドであるデボラ・グルジェル(Débora Gurgel, p)、セリジーニョ・マシャード(Serginho Machado, ds)、ファビオ・サー(Fábio Sá, b)、そしてゲスト参加のナイロール・プロヴェータ(Nailor Proveta, cl)の本領が発揮されている。
Badi Assad 略歴
バジ・アサドは1966年サンパウロ生まれ。主にクラシックの分野で活躍する世界的ギタリスト、セルジオ・アサド(Sergio Assad, 1952 – )とオダイル・アサド(Odair Assad, 1956 – )は実兄。
レバノン系移民であり、ショーロのバンドリン奏者だった父は著名なアルゼンチン人ギター奏者モニーナ・タヴォラから子供たちにギターを習わせるため、1969年に家族を連れてリオデジャネイロに引っ越している。
バジ・アサド自身も幼少時から父や兄の影響でギターを始め、14歳からプロとして音楽のキャリアを開始している。リオデジャネイロ大学ではクラシックギターを専攻。1984年にリオデジャネイロで開催された器楽のコンクールで優勝、1987年にはベスト・ブラジリアン・ギタリストに選出されるなど兄同様に注目され、その後も米国の雑誌『ギター・プレイヤー』が世界に革命をもたらすギタリストとして彼女を選出するなど、ブラジルでもっとも優れたギタリスト/ヴォイスパフォーマーとして今日まで活動している。
Badi Assad – guitar, vocal
Débora Gurgel – piano
Serginho Machado – drums
Fábio Sá – contrabass
Guests :
Marcos Suzano – pandeiro (2)
Zélia Duncan – vocal (7)
Nailor Proveta – clarinet (10)
- MPB(エミペーベー)…ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ(Música Popular Brasileira)の略。1960年代のボサノヴァ誕生以降の、歌詞に文化的・社会的なメッセージが込められたものを指す。より大衆的・商業的な流行歌は「ブラジリアン・ポップス」と呼ばれ区別されることが多い。 ↩︎