ジョン・スコフィールドとデイヴ・ホランドの初デュオ作
積み重ねてきた文化の深み、絆の強さを感じさせる。ジャズの半世紀を支えてきた二人のレジェンド、ジョン・スコフィールド(John Scofield)とデイヴ・ホランド(Dave Holland)の初のデュオ・アルバム『Memories of Home』がECM Recordsからリリースされた。今作では二人が過去に作曲した代表曲や、新たに書き上げた曲を演奏する。
ギターとダブルベースのデュオという最小限のフォーマットで静かに繰り広げられるのは、熟練した二人の音楽家による旧友との再会を懐かしむような対話だ。まさに言葉のない会話のように、互いのフレーズが語り、呼応し、時には沈黙を共有しながら物語を紡ぐ。ジョン・スコフィールドのギターは好奇心に満ちた発言者のようにメロディを投げかけ、デイヴ・ホランドのダブルベースは思慮深い聞き手としてそれを支え、発展させる。ギターとベースのデュオといえばパット・メシーニ(Pat Metheny)とチャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)の『Beyond the Missouri Sky (Short Stories)』(1997年)が名盤として広く知られているが、今作もそれに匹敵する素晴らしさで、じっくりと聴き浸りたい音楽だ。
アルバムの冒頭曲(1)「Icons at the Fair」は、二人がかつて共演したハービー・ハンコック(Herbie Hancock)のリーダー作『The New Standard』(1996年)収録の「Scarborough Fair」に触発されジョン・スコフィールドが作曲したもの(2018年作『Combo 66』収録)で、ここではビル・フリゼール(Bill Frisell)のプレイを彷彿させる素朴なアメリカーナを感じさせるイントロで始まり、すぐに軽快なスウィングへと流れていく。後半のコール・アンド・レスポンスは二人が活発な意見を交わし合うようなダイナミックさがあり、スコフィールドのソロもホランドの演奏に触発されてテーマを再構築する。
アルバム収録曲は前半4曲と(7)「Easy for You」がジョン・スコフィールドの作曲、それ以外の4曲がデイヴ・ホランドの作曲となっている。
(2)「Meant to Be」はジョン・スコフィールドの1991年作『Meant to Be』より。トリオからビッグバンドまで多様な編成で演奏されてきた彼の代表曲で、ここではデイヴ・ホランドのベースが拾い上げるテーマのメロディーも含め、二人のリリカルな演奏が印象的だ。ジョンスコはハーモニクスなども交えながら、ブルースやカントリーの要素も混在した“アメリカの音楽”を見事に提示する。
(5)「Mr. B (Dedicated to Ray Brown)」はデイヴ・ホランドのベース・ヒーローであるレイ・ブラウン(Ray Brown)へのトリビュート曲で、1997年作『Points of View』に収録されていたものの再演だ。
コール・ポーター(Cole Porter)の「I Love You」のコントラファクトであるコントラファクトである(8)「You I Love」はデイヴ・ホランドの1984年作『Jumpin’ In』からの再演。
ラストに収められたタイトル曲(9)「Memories of Home」も素晴らしい。ゆったりしたテンポの美しい三拍子の曲で、アルバムを“惜しまれながら”もクローズするのに最適だ。それはまるで二人の半世紀にわたる音楽歴を総括するように静かに厳かに響き、ある種の感情的な震えをリスナーの内面に灯す。慎ましくも完璧なソロやインタープレイは、ジャズ・レジェンドの極致であろう。
ジャズ・レジェンド、John Scofield & Dave Holland 略歴
ギタリストのジョン・スコフィールドは1951年12月26日、米国オハイオ州生まれ。“ジョンスコ”、“アウトする禿げ”の愛称で親しまれている。
コネチカット州郊外で育ち、11歳でギターを始め、ロックとブルースのプレイヤーに影響を受けた。1970年から1973年までバークリー音楽大学に在籍し、ボストン周辺で活動。1970年代中盤から後半にかけてジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)やチェット・ベイカー(Chet Baker)、ビリー・コブハム=ジョージ・デューク・バンド(Billy Cobham-George Duke Band)に参加。1982年から1985年までマイルス・デイヴィス(Miles Davis)のバンドに在籍し、国際的に注目を集めた。以降、Blue NoteやVerveなどのレーベルでリーダー作を30枚以上リリース。ジャズ、フュージョン、ファンク、ブルース、ロックを融合した独自のスタイルで知られ、グラミー賞を複数回受賞している。教育者としても活躍し、ニューヨーク大学で教鞭を執る。
ベーシストのデイヴ・ホランドは1946年10月1日、イングランド・ウルヴァーハンプトン生まれ。4歳でウクレレを始め、10歳でギター、13歳でベースギターに移行。子供時代にピアノレッスンも受けた。
20歳でロンドンに移住し、Ronnie Scott’sクラブで演奏。1968年にマイルス・デイヴィスに見出され、彼のバンドに参加。『In a Silent Way』(1969年)や『Bitches Brew』(1970年)などの革新的なアルバムに貢献した。
1970年に離脱後、チック・コリア(Chick Corea)らとCircleを結成。1973年にECMでリーダー作『Conference of the Birds』をリリース。以降、ECMを中心にソロ、トリオ、ビッグバンド作品を多数発表。伝統ジャズからアヴァンギャルド、ワールドミュージックまで幅広いスタイルを追求し、NEAジャズマスターに選出される。
1993年のジョー・ヘンダーソン(Joe Henderson)のリーダー作『So Near, So Far (Musings for Miles)』は二人が共演した初めての作品。これはそれぞれ在籍した時期が異なるものの共通の師であり仲間であったマイルズ・デイヴィスへのトリビュート作で、ジョン・スコフィールドのギターとデイヴ・ホランドのベースが融合した重要な作品となった。
以降、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の1996年作『The New Standard』で再び共演。2002年にはジョー・ロヴァーノ(Joe Lovano)とアル・フォスター(Al Foster)とのスーパーグループScoLoHoFoを結成し、アルバム『Oh!』をリリース。その後も複数のコンテクストで共演を重ね、2021年からデュオでのツアーを開始。2024年のツアーを経て、2025年11月にECMから初のデュオアルバム『Memories of Home』を発表した。
John Scofield – guitar
Dave Holland – double bass