ターキッシュ・フュージョンの魅力が満載! ピアノとG管クラリネット中心の心踊る傑作『Homeland』

Tulug Tirpan & Serkan Çağrı - Homeland

トゥルー・トゥルパン&セルカン・チャール『Homeland』

トルコの伝統音楽と技巧的なジャズ・フュージョンの高度な融合に驚かされる。現在進行形のターキッシュ・ジャズを牽引する4人の音楽家による2025年のアルバム『Homeland』は、日本はおろか世界中のほとんどのメディアで言及されていないが、埋もれさせておくには勿体無い“中東の宝石”のような作品だ。

アルバムはピアニストとクラリネット奏者の双頭名義。ピアノのトゥルー・トゥルパン(Tulug Tirpan)は1970年イスタンブール生まれ。ウィーン音楽院で学び、トルコの伝統音楽を取り入れた交響曲やジャズ作品で知られている。クラリネットのセルカン・チャール(Serkan Çağrı)は1976年にブルガリア・ギリシャの国境に近い東トラキアの小村ケシャンで生まれ、多文化環境で育った。今作はこの二人の名義だが、基本的にはカルテット編成でほかの二人の超絶的な技巧とセンスもあわせ、ワクワクするような冒険的で素晴らしい音楽が展開されていく。

古代より交易の要衝であったトルコを象徴するような、行き交う人々のガヤと、1969年イズミル生まれのトルコを代表する打楽器奏者であるメフメット・アカタイ(Mehmet Akatay)によるレクの演奏で始まる(1)「Homeland」が、いきなり今作の圧倒的な充実度を示している。ブラス隊やギターも洗練されたアレンジだが、ここでは前述のようなトルコの街中の賑やかしに過ぎない。ここでの主役はセルカン・チャールのクラリネットで、同地のクラリネット奏者にとっては標準的なG管の楽器──もっとも、トルコを代表するクラリネット奏者である彼はAmatu-Denak社と共同開発した自身の名を冠したモデルを使用しているようだ──による独特のエキゾティシズム溢れるタクシム(即興)で場を染め上げてゆく。

つづく(2)「Cambaz」も実に楽しい。ジプシー・バルカンの影響も自然に取り入れつつ、どこかラテン気質も感じさせる祝祭的な楽曲で、9/8拍子の独特のリズムも特徴的。楽曲全体を支える1987年イスタンブール生まれのベース奏者メフメット・オゼン(Mehmet Özen)のクリエイティヴなベースラインも最高だ。

(2)「Cambaz」

(3)「Çalın Davulları」での爽やかな女性ヴォイスのアクセント、(4)「Horo」の中間部での張り合うようなクラリネットとベースのソロ、神秘的な感覚さえ漂わす(6)「Uzak」、エレクトロニックやスポークン・ワードも取り入れて空間を拡張するラストの(7)「Aşık」など、情報量は凄まじい。

彼らの音楽を分析すれば変拍子、マカームに根差した微分音の多用といった表面的なことから、その背景にあるトルコの伝統音楽やジャズ、フュージョン、プログレ、西洋クラシックなどがごく自然と混ざり合った文化的環境など語るべきことは枚挙に遑がないが、ただひとつ言えることは「この音楽は最高に楽しい」という事実だ。

Tuluğ Tırpan – piano
Serkan Çağrı – clarinet
Mehmet Akatay – percussion
Mehmet Özen – electric bass

Tulug Tirpan & Serkan Çağrı - Homeland
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