ドミニク・フィス=エメが歌う解放の歌。『My World Is The Sun』
カナダを代表する女性シンガー、ドミニク・フィス=エメ(Dominique Fils-Aime)。ジュノー賞を受賞するなど高く評価された2023年の前作『Our Roots Run Deep』では自身が根ざすルーツについて歌い、単なる音楽を超えた彼女自身の内面や社会との繋がり、脈々と繋がれる命について深い洞察の作品だったが、この2026年作『My World Is The Sun』ではその価値観を保ちつつ、より解放的なテーマを感じさせる内容となっている。
きっかけは、彼女が実家で見つけた、1970年代に録音された古いカセットテープだった。ガットギターの柔らかい伴奏に乗せて歌手顔負けの美しい声で歌っているのは、科学者であった母親のクローデット・トーマス(Claudette Thomas)。これを聴いて、母親がこれほど才能ある歌い手だったと知らなかったドミニクは心を動かされたという。──これが、今作の冒頭(1)「Ma Mélodie [intro]」に収められている。
アルバムはひとつの物語を紡ぐように進んでゆく。
母の歌声とギターは波の音に砕かれて消え、その後に現れるのはまるでマントラのような瞑想的な(2)「Sea of Clouds」。ここでドミニク・フィス=エメは足を地から離し、雲海の上から眺めるような明晰さを語る。効果的なのは彼女のマネージャーであり、彼女が属するレーベルの共同設立者でもあるケヴィン・アノック(Kevin Annocque)によるディジュリドゥーの響き。その低音のドローンは今作のスピリチュアルな一面の象徴となっている。つづく美しいコーラスワークで始まる(3)「Sun Skin」では、前曲からつづく深い低音と、ショーン・マティヴェツキー(Shawn Mativetsky)によるタブラがこの物語をより一層ミステリアスに仕立てる。
(9)「Life Remains」も素晴らしい。歌詞では「他人の意見や分析に惑わされず、自分の人生と魂の音楽をそのまま生きる」という彼女の強い信念が語られている。イシェム・ハルファ(Hichem Khalfa)の鋭いトランペットは、ドミニクのヴォーカルと同等に存在感を示している。
ラスト(ボーナストラックを除く)に収められた(14)「Ma Mélodie [outro]」は、冒頭で母親が歌っていた曲のドミニク・フィス=エメによる歌唱。人生の“サイクル”を感じさせる、美しい構成でアルバムを締め括る。
Dominique Fils-Aime プロフィール
ドミニク・フィス=エメは1984年カナダ・ケベック州モントリオール生まれ。両親はハイチからの移民で、ソウルやジャズなどのアフリカ系アメリカ人の音楽のファンだったという。
2015年にモントリオールに本社を置くテレビ局TVAの歌唱コンテストシリーズ『La Voix』の第3シーズンに出場し、準決勝ラウンドでマット・ホルボウスキー(Matt Holubowski)に敗退した。
2016年に自主制作のEP『The Red』でデビュー。その後モントリオールに拠点を置くEnsoul Recordsと契約し、『Stay Tuned!』(2019年)はジュノー賞「年間最優秀ヴォーカル・ジャズ・アルバム」を受賞。さらに『Our Roots Run Deep』(2023年)で再び同賞を受賞し、さらに第46回フェリックス賞で年間最優秀ジャズ・アルバム賞を受賞した。
Dominique Fils-Aimé – vocals, chimes
Claudette Thomas – vocals (1)
Jacques Roy – upright bass, electric bass
Harvey Bien-Aimée – drums, shakers
David Osei Afrifa – keyboards, synthesizers, piano
Hichem Khalfa – trumpet
Elli Miller Maboungou – percussion, shakers
Shawn Mativetsky – tabla
Etienne Miousse – guitar
Steeve St-Pierre – violin
Camille Gélinas – piano (15)
Kevin Annocque – didgeridoo