イスラエルジャズの雄アヴィシャイ・コーエン新譜!
2017年にリリースされた前作『1970』がまさかの本人自身の歌を全面的にフィーチュアした作品だったので、方向性を変えたのかと、多くのジャズファンは不安に思っていたことだろう。
最強ベーシストの呼び声も高いアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)の2019年新作『Arvoles』は、そんな不安を一掃してくれる快作だった。
昨年頃より活動をともにするエルチン・シリノフ(p)、ノーム・ダヴィド (ds)を迎えてのトリオ。
アヴィシャイ・コーエンのあのぶっといベースが大地を揺るがす。
多くのジャズファンにとって、アヴィシャイ・コーエンに求めている音が蘇った。
ピアノのエルチン・シリノフは要注目
さらに、個人的なトピックはアゼルバイジャン出身のピアニスト、エルチン・シリノフ(Elchin Shirinov)の参加である。
少し前からアゼルバイジャンのジャズシーンに大いに注目している私にとって、現代アゼルバイジャニ・ジャズ(ムガーム・ジャズ)を代表するピアニストである彼が、世界的ベーシストであるアヴィシャイのバンドに参加することはまさに大興奮以外のなにものでもない。
アヴィシャイはこれまでも、シャイ・マエストロ、ニタイ・ハーシュコヴィッツといった当時無名のピアニストを自身のトリオに迎え入れ、結果それらのピアニストは世界的に有名になり、アヴィシャイのバンドを脱退後も大きな注目を浴びる存在になった。
今回のエルチン・シリノフの起用が、彼のみならず、そのルーツにあるムガーム・ジャズが脚光を浴びるきっかけになれば、この先のJAZZの進化においても大いに意味があることだと思う。
余談:紛らわしいアヴィシャイ・コーエン
ちなみに、著名なジャズミュージシャンに「アヴィシャイ・コーエン」という名前の人は二人いるので注意が必要だ。
ひとりは今回紹介したベーシストのアヴィシャイ・コーエン。
もうひとりは、こちらも人気トランペッターのアヴィシャイ・コーエン。
どうやら、イスラエルにおいては「Avishai Cohen」という名前は日本で言うところの「山田太郎」のような、よくある名前らしいのだ。
…紛らわしいことに、今回紹介したアルバムのピアニストであるエルチン・シリノフは、トランペッターの方のアヴィシャイ・コーエンとも共演をしている。
いつか“コーエンがコーエンと公園で公演した”みたいな企画を誰かが実現してくれたら嬉しいと、ほんの少しだけ思っている。