ウアクチの神話と、その名を冠する独創的な創作楽器集団
ウアクチは不思議な生き物で、体中に穴が開いており、風がその穴を通るたびになんとも魅惑的な音を発していた。その”音楽”が部族の女性をあまりに魅了したため、嫉妬した男たちはウアクチを捕らえ、殺してしまった。ウアクチの遺体が埋められた場所からは椰子の木が生え、人々はウアクチが奏でていたような魅惑的な音楽を奏でるため、その椰子の木を使ってフルートを作るようになった。
unimusica.blog.shinobi.jp
ウアクチ(Uakti)とは、ブラジル北東部〜コロンビアの地域に住む先住民族、トゥカーノ族の神話に現れる伝説的な存在のこと。
この神秘的な生き物の名前を冠するブラジルのグループが、今回紹介する「Uakti」だ。この独創的なブラジルのグループは、ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)、ポール・サイモン(Paul Simon)、マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)、マリア・ベターニア(Maria Bethânia)といった大物との共演でも知られている。
ブラジル音楽への興味を掻き立てるウアクチの存在
映像を観ていただければ分かるように、彼らがステージで使う楽器はとても面白いものばかりだ。
アンジェリムと呼ばれる通常のマリンバとは異なる木材の鍵盤を備えたマリンバ、そしてガラス製のマリンバ。
Torre(タワー)と呼ばれる一人がハンドルを回して、もう一人が弓で弦を擦る巨大な楽器。
何本かの塩ビパイプで作られた独特の魅力的な音を奏でる打楽器。
そしてChori Smetano と呼ばれる、ビリンバウに似た形の楽器(“泣く”と“笑う”といった正反対の感情を同時に表現することができるらしい)。
見たことのない楽器で、聴いたことのない音を奏でるウアクチ(Uakti)だが、彼らの楽曲は不思議と親しみ深く、聴いているとどこか懐かしささえ覚える。
取り上げている楽曲はブラジルの有名な作曲家の楽曲だったり、クラシックや現代音楽の作曲家だったり、ビートルズといったポップスの曲だったりと実に多岐に渡るが、彼らが一貫して追求しているものはアートとしての音楽表現の拡張なのだろう。
実際、創作楽器集団としての面白さみたいなものが強調されがちだが、使っている楽器は創作楽器だけではなく普通のフルートやピッコロ、シンセサイザー、キーボード、トライアングルやタブラなどもあるし、親しみやすい楽曲も多いことから単に奇を衒った表現をしたいだけのグループではない。
Uaktiのメンバーは全員が交響楽団の出身
ウアクチのリーダー、マルコ・アントニオ・ギマランイス(Marco Antônio Guimarães)が音楽学生時代に出会った教師が、スイス出身で1930年代にブラジルに渡った後、バイーア連邦大学で音楽教師として教鞭をとり、あのカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルに多大な影響を与えたWalter Smetakだ。彼の創作楽器への異様なほどの情熱がマルコ・アントニオ・ギマランイスに大きな感銘を与え、後にUaktiを結成させるきっかけとなった。
マルコ・アントニオ・ギマランイスはミナス州立交響楽団出身でチェロを演奏する傍ら、創作楽器の制作にいそしみ、交響楽団の同僚から志を同じくするメンバーと1978年にウアクチを結成。
その後数年間で独創的なグループとしての地位を確立し、冒頭に書き出したようなブラジルや米国の多くの著名ミュージシャンからの賛同を得ながら、2015年まで活動を続けた。
メンバーの中のアルトゥール・アンドレス(Artur Andrés Ribeiro)は、近年では“ミナス新世代”の人気SSWであるアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)の父親としても知られるようになっている。
ウアクチの独創的な楽器とその演奏表現は、まるで底の知れないブラジル音楽への興味をさらに掻き立ててくれる。