チリ出身、NYで活躍するカミラ・メサのメジャーデビュー作
これほどの才能を目の当たりにして、彼女に嫉妬しない音楽家はいるのだろうか。
NYを拠点に活動するチリ出身のジャズギタリスト/ヴォーカリスト/作曲家のカミラ・メサ(Camila Meza、英語読みでカミラ・メザとも)の2019年作『Ambar』。弦楽四重奏を加えた自身のバンド「The Nectar Orchestra」を率いての録音で、自身5作目のフルアルバムにしてメジャーデビュー作でもある。
1985年、チリの首都サンチアゴで生まれたカミラ・メサ。彼女の武器は、カート・ローゼンウィンケルとも比較されるほどのジャズギターだ。そして、その美しい声だ。Sadowskyのギターを手に歌う彼女の姿は神々しいほどだ。
作編曲のセンスはもちろんだが、楽曲選定のセンスも申し分ない。これまでのアルバムで同郷チリの悲しい死を遂げたSSWビクトル・ハラ(Víctor Jara)の楽曲を好んで取り上げたり、今作でもデヴィッド・ボウイ(David Bowie)とパット・メセニー(Pat Metheny)の共作(4)「This Is Not America」をカヴァーするなど、世界規模で閉塞感のあるこの時代に対する素晴らしいバランス感覚も併せ持つ。
まさに非の打ち所がないアーティストである。
音楽性豊かな『Ambar』は非の打ち所のない快作
アルバムタイトルの「Ambar」は“琥珀”の意味なのだそうで、アルバムのテーマは樹木の再生になぞらえた“癒しのプロセス”の表現とのこと。
今作は緻密にアレンジされた弦楽四重奏の存在が非常に効果的で、クラシカルに、ときに前衛音楽的に場を制している。かといって重く大げさになりすぎず、あくまでカミラ・メサのヴォーカルの引き立て役に徹する。
パーカッション/ドラムスで参加しているのは2017年にグラミー賞を受賞したスナーキー・パピー(Snarky Puppy)など、複数のバンドに在籍するNYの売れっ子パーカッショニスト、小川慶太(Ogawa Keita)。複数の打楽器を駆使し、色彩的な音響空間を創り出している。
アルバムには自身のオリジナル曲のほか、米国のSSWエリオット・スミス(Steven Paul “Elliott” Smith)の(2) 「Waltz #1」、カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Verozo)の歌唱で有名な(12)「Cucurrucucu Paloma」など、痒いところに手が届く秀逸なカヴァー曲も収録。
(8)「Milagre dos Peixes(魚たちの奇跡)」は“ブラジルの声”ことミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)の名曲のカヴァー。浮遊感のある美しいコード、メロディーが特徴的なこの難曲を、カミラ・メサはポルトガル語で完璧に表現している。
今もっとも注目されるジャズギタリストとして、美しく自然体のシンガーソングライターとして、新しい音楽を際限なく探求するミュージシャン・オブ・ミュージシャンズとして…才女カミラ・メサの魅力はこれからも尽きることがない。
カミラ・メサ (vocal, guitar)
ザ・ネクター・オーケストラ
エデン・ラディン (piano, keyboards)
ノーム・ウィーゼンバーグ (bass)
小川慶太 (drums, percussion)
大村朋子 (violin)
フォン・チェム・ホェイ (violin)
ベンヤミン・フォン・グートツァイト (viola)
ブライアン・サンダーズ (cello)