サンバから派生したパゴーヂという音楽
パゴーヂ(Pagode)またはサンバ・パゴーヂ(Samba Pagode)とは、サンバから派生したブラジル特有の音楽で、少人数で気軽に楽しめるサンバをベースとした音楽の事を指す。その始まりは1978年、“女王”と呼ばれたサンバ歌手ベッチ・カルヴァーリョ(Beth Carvalho)によって広まった音楽のジャンルだ。
ベッチ・カルヴァーリョによって紹介されたこのジャンルで最も有名なグループ、フンド・ヂ・キンタウ(Fundo de Quintal)に代表されるパゴーヂのサウンドは、ギターやカヴァキーニョ(Cavaquinho, ショーロでも多様される4弦の弦楽器)にパンデイロ、タンタン、スルドといった打楽器と、その場にいる殆どが参加するコーラスが特徴的。優雅でありながら、生きる喜びや悲しみ、そのすべてが内包された究極のサンバ・ミュージックだと思っている。
パゴーヂの雄、アルリンド・クルスの名盤
アルリンド・クルス(Arlindo Cruz)は、そのフンド・ヂ・キンタウの中心人物だった音楽家。彼がソロで発表した2015年作『Fundamental』は終わり行く夏に最適なサウダーヂ満載のアルバムだ。
アルリンド・クルスは1958年生まれの生粋のサンビスタ。
父親はアマチュアミュージシャンで、サンバの巨匠カンデイア(Candeia)ら多くの作曲家や演奏家が集まり、常にセッションが行われている家庭に育った。7才の時に初めてカヴァキーニョを与えられ、楽器を教えてくれる父親の帰りをいつも心待ちにしていた少年だったという。
1980年代にブレイクした前述のフンド・ヂ・キンタウに所属し、作曲やカヴァキーニョなどを担当し活躍したが1993年に同グループを脱退。以降はソロとしていくつかのアルバムを発表している。
本作でのハイライトはラストの「O Show Tem Que Continuar」。
これはフンド・ヂ・キンタウ時代に作られ、歌い継がれている名曲だ。タイトルはジョアン・ボスコ(João Bosco)のプロテストソングとしても知られる名曲「O Bêbado e a Equilibrista(酔っ払いと綱渡り芸人)」の歌詞の一節の引用で、“ショウは続けなければならない”の意。
楽しいサンバの夜がいよいよ終わりに近づいた寂しさを最大限に表現した、実に美しい曲だと思う。