異能のギタリスト、グェン・レ 新譜はJAZZ×サーカスの魔法のようなパフォーマンス

Nguyen Le - Overseas

グェン・レの新譜はJAZZ×サーカスの異色の作品

つくづく、天才とはこういう人のことを言うのだと思う。

新作を出すたびに斬新な音楽に驚かされるフランスのギタリスト、グェン・レ(Nguyên Lê)の新譜『Overseas』は、そのありきたりでシンプルなタイトルと裏腹に、驚きに満ちた凄まじい作品だった。

今回の音楽は、なんとサーカスとの共演だ。

パートナーを組んだのは世界的サーカス団シルク・ドゥ・ソレイユの振付師でもある演出家のトゥアン・レ(Tuan Lê)。グェン同様、ベトナム系である。トゥアン・レが立ち上げたサーカス団「ベトナム・ヌーボー・シルク」のために書かれた壮大な音楽絵巻が本作である。

『Overseas』のショートトレイラー。
サーカスとバンド演奏がごく当たり前であるかのように共存している不思議なステージ。

JAZZ、HIPHOP、ベトナム音楽etc…全てが新しい

本作でグェン・レは、従来の作品でも見せてきたようにジャズ、ロック、プログレとベトナムの民族音楽を組み合わせただけでなく、ヒューマンビートボックスをフィーチュアするなどヒップホップ文化やレゲエをも吸収し、魔法でも見ているかのような圧巻の音楽世界を築き上げた。
ベトナムの伝統的なフィドルや竹製の木琴、竹笛、竹製の打楽器、そして口琴…それらの聴き慣れない楽器の音が魔法を強くしている。
グェン・レのギターはいつも通りの彼にしかできないであろう独特の魅力的なプレイスタイル/音色だ。

この音楽は、いったい何なのだろうか…。
グェン・レというギタリストは、ジャズとベトナムルーツの音楽を掛け合わせた彼独自のジャンルを確立してしまっているように思える。

全ての楽曲に驚きがあるが、個人的なハイライトは(2)「People of the Waterfall」 だ。
同じ音型を8分音符・16分音符・三連譜と切り替えるめんどくさい刺激的なフレーズに耳を引かれる。
ゲスト参加のデンマークで生まれたベトナム系の人気ベーシスト、クリス・ミン・ドーキー(Chris Minh Doky)のグルーヴィーな演奏が素晴らしい。 Trung Baoによるヒューマン・ビートボックスもとても効果的に響いている。

(2)「People of the Waterfalls」はオリエンタルな雰囲気が満載で、本作のハイライトのひとつ。
琉球音階に似たスケールで、南国感も漂う。

(5)「Origin」から(11)「Year of the Dog」までが本作のメインディッシュである「Overseas」の組曲となっている。いずれも、ベトナムの伝統音楽にインスパイアされつつも、現代的な楽曲に仕上がっている。

ベトナムの伝統的な歌唱が聴ける(5)「Origin」、Trung Baoによるヒューマン・ビートボックスが全面フィーチュアされた(9)「Beat Rice Box」、レゲエやダブの要素が色濃く、クオン・ヴー(Cuong Vu)のトランペットが印象的な(10)「In the Warm Rain」などなど、物語性に富んだアーティスティックな展開だ。

グェン・レのバンドと、ヌーボー・シルクのスタジオでの練習の模様。

グェン・レ(Nguyên Lê)はベトナム人の両親のもと、フランスで1959年に生まれたギタリスト。私は彼のジミ・ヘンドリックス楽曲集の過去作『Purple – Celebrating Jimi Hendrix』が大好きで、過去にも当サイトで詳しく取り上げている。興味がある方は、ぜひこの記事もご覧いただきたい。

Nguyen Le - Overseas
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