【アントニオ・カルロス・ジョビン没後25周年】私が愛するジョビンのボサノヴァ TOP10

Antonio Carlos Jobim

20世紀最高の作曲家 A.C.ジョビン

一番好きな作曲家は誰?と尋ねられたとき、真っ先に彼の名前を挙げます。
アントニオ・カルロス・ジョビン。ブラジルの作曲家。
それまでにない斬新なコード進行とメロディを軽快なリズムに乗せた音楽、ボサノヴァという一ジャンルを歌手でギタリストのジョアン・ジルベルト、そして詩人のヴィニシウス・ヂ・モライスらと共に創り上げた作曲家です。彼がいなければ、誕生から半世紀が過ぎた今もなお街中に溢れるボサノヴァという音楽はおそらく生まれなかっただろうし、私がこれほどまでに音楽を愛し、ギターなどの楽器を愛することもなかったと思います。

今回はそんな敬愛するアントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim, 1927年1月25日 – 1994年12月8日。“トム・ジョビン”の愛称でも知られる)が生み出した素晴らしい曲を10曲だけ、ランキング形式で選んでみました。

Antonio Carlos Jobim

第10位 「Garota de Ipanema(イパネマの娘)」

いきなりですがジョビン最大のヒット曲、あまりにも有名な曲です。とてもシンプルな曲に聴こえますが、ベースの半音進行や、ブリッジ部分の連続する転調など、ボサノヴァの小洒落た要素が凝縮されたような構成になっており、その辺のギャップが多くのミュージシャンを虜にして止まないところだと思います。

ブラジルを代表する女性歌手、ガル・コスタが歌う「イパネマの娘」

この「イパネマの娘」は世界で2番目に多くカバーされたポピュラーソングと言われています。ちなみに1位はビートルズの「Yesterday」。
これらの楽曲をつくったジョビンとジョン・レノンは、いずれも12月8日が命日です。

第9位 「Wave(波)」

1967年に発表されたジョビンを代表するアルバム『Wave』の表題曲。このアルバムは全編インスト作品ですが、ジョビン本人による作詞もあり、インスト/歌入りの両方で親しまれている名曲です。「波」のタイトルどおり、穏やかな海を連想させる曲調で、まるで夢の中で波間に揺られているような心地良さがあります。

アントニオ・カルロス・ジョビン、ハービー・ハンコック、ロン・カーターなどが集った伝説的なライヴで披露された「Wave」

歌い出しの部分、2つ目のコードにいきなりディミニッシュ(短3度ずつ音を重ねた和音)と呼ばれる不協和音が使われており、メロディーもこの和音構成に沿って上昇していきます。

第8位 「A Felicidade(フェリシダージ)」

タイトルは「幸せ」を意味するポルトガル語ですが、歌詞は「悲しみには終わりがないが、幸せには終わりがある…」で始まる切ない内容で、年に1回のカーニヴァルのために年中必死に働く貧しい人々の気持ちを歌っています。
1959年の映画『黒いオルフェ』の挿入歌として発表されました。

ジョビン自身のバンドによる「A Felicidade」の演奏映像。

第7位 「Sabiá(サビア)」

シンガーソングライター、シコ・ブアルキによる祖国ブラジルへの愛を綴った詩に、ジョビンが曲をつけた美しい楽曲です。
曲名「Sabiá」ブラジルの国鳥である小鳥、サビア(ナンベイコマツグミ)のことで、この小鳥もとても美しい声で鳴くそうです。

ジョビンのピアノと、シコ・ブアルキによる歌の貴重なライヴ映像。

ジョビンはブラジルの自然や動物、とりわけ小鳥をこよなく愛し、小鳥たちとの会話に癒しを求めていたといわれています。

第6位 「Água de Beber(おいしい水)」

「おいしい水」という邦題がついていますが、直訳だと単に「飲み水」というタイトルです。歌詞では「生きていくためには水が必要、そして水と同じくらい愛が必要」といった情熱的な内容が歌われています。

ブラジル生まれの日本人ギタリスト/歌手の小野リサによる「Água de Beber」

私にとってはフランスの名音楽家ピエール・バルーがギターで弾き語るこの曲のフランス語カバーを聴いて強い憧れを抱き、クラシックギターを買ってボサノヴァを始めたほど、思い入れの深い曲です。

第5位 「Retrato Em Branco E Preto(白と黒のポートレート)」

複雑なコード進行と、半音を多用した水面のように揺らぐ旋律が絶妙な美しさを湛えた名曲です。決して戻ることのない過去の思い出に執着するような心境を歌った切ない歌詞とも相まって、この上なく繊細な音楽です。
1965年に「Zingaro(ジンガロ)」というタイトルでジョビンが作曲、その数年後にシコ・ブラルキが詞をつけており、そんな経緯から今でも他のアーティストのカヴァーでは「白と黒のポートレート」「ジンガロ」という曲名表記が混在しています。

ブラジルの歌姫ジジ・ポッシが官能的に歌い上げる「白と黒のポートレート」

第4位 「Desafinado(ジサフィナード)」

1959年に発表された、ボサノヴァ最初期の曲のひとつ。
曲名は「調子外れ」「音痴」といった意味で、歌詞の中で初めて「Bossa Nova(ボサノヴァ=新しい潮流)」という言葉が使われた曲としても知られており、以降この種のジャンルの楽曲が「ボサノヴァ」と呼ばれるようになりました。

スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトによる1964年の大ヒットアルバム『Getz/Gilberto』でも取り上げられており、ボサノヴァのみならずジャズのスタンダード曲として定着しています。

ジョアン・ジルベルトとカエターノ・ヴェローゾによる貴重なライヴ映像。

第3位 「Águas de Março(三月の雨)」

ジョビンが生んだ数あるボサノヴァの名曲の中でも、私がもっとも幸せな気分になれる曲です。

「棒きれ、石ころ、道の終わり、木の切り株、少しの寂しさ…」といった一見意味のなさそうな単語がとめどなく並べられた歌詞はジョビン自身によるもの。
複雑に進むコード進行の上で繰り返される素朴なメロディがこの上なく美しく、辛いことが多い人生でも前向きに歩んでいこう、そんな前向きな気持ちにさせてくれます。

A.C.ジョビンとエリス・ヘジーナによる「三月の雨」のデュエット。

南半球のブラジルでは、3月は夏の終わり、秋が始まる時期。長い夏が終わり、2月のカーニバルも終わり、そんなちょっと寂しさを感じる季節に降る雨に繊細な心情を被せた名曲です。

第2位 「Samba do Avião(飛行機のサンバ)」

飛行機に乗ることは嫌いでも、リオデジャネイロのサントス・デュモン空港で飛行機を眺めることは大好きだったというジョビン。彼は外国の雑誌や新聞を買うことを口実にグアナバラ湾の水辺を散歩しては、空港に立ち寄っては飛行機を観察していたと伝えられています。

そんな飛行機大好きジョビンが1963年にブラジル最古の航空会社ヴァリグ・ブラジル(2005年に倒産)のCMソングとして作詞作曲したのがこの曲「Samba do Avião(飛行機のサンバ, ジェット機のサンバ)」。これがジョビンが憧れた空の旅への想いが詰まった名曲中の名曲で、今ではCMソングという枠をとっくに超え、リオデジャネイロを象徴する曲として親しまれています。

小野リサとミウシャ(ジョアン・ジルベルトの元妻)が歌う「飛行機のサンバ」。
ピアノはA.C.ジョビンの孫ダニエル・ジョビン、ギターは息子パウロ・ジョビン。

リオデジャネイロにある旧ガリオン空港は、A.C.ジョビンの功績を称え1999年に「アントニオカルロスジョビン国際空港」の名に改称されています。

第1位 「Chega de Saudade(想いあふれて)」

1958年。ジョビン作曲、ヴィニシウス・ジ・モラエス作詞、そしてジョアン・ジルベルトがギターを弾き歌った「Chega de Saudade(シェガ・ジ・サウダージ」はそれまでのブラジルのサンバと違い、囁くように歌うスタイル、洗練された和音やメロディーで“新しい感覚のサンバ”として若者たちの間でヒットしました。後に前出の「Desafinado(ジサフィナード)」で“ボサノヴァ”という言葉が始めて使われると、この「Chega de Saudade」に始まった“新しい感覚のサンバ”は、ボサノヴァという言葉で呼ばれるようになりました。

そんな音楽史上に輝く歴史的名曲を、今回のランキングの1位に挙げてみました。

ジョアン・ジルベルトが来日公演で披露した「シェガ・ジ・サウダージ」。
ジョビンと共にボサノヴァを生んだこの偉大なギタリスト/歌手は2019年7月に他界してしまいました。

曲名にある「サウダージ」は日本語の「郷愁」に似た感覚といわれています。
哀愁を帯びたメロディーが美しいこの曲も、他のジョビンの曲の例に漏れず、演奏しようと思うととても難しい曲です。

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