現代NYジャズを代表するベーシスト、ハリシュ・ラガヴァン待望の初リーダー作
2007年にイリノイ州からニューヨークに到着して以降、カート・エリングやアンブローズ・アキンムシーレ、ウォルター・スミス3世、ヴィジェイ・アイヤー、エリック・ハーランド等々数多くのアーティストと共演を重ねてきた稀代のベーシスト、ハリシュ・ラガヴァン(Harish Raghavan)による待望の初リーダーアルバム『Calls for Action』がリリースされた。
バンドはハリシュ・ラガヴァンのほか、ヴィブラフォンのジョエル・ロス(Joel Ross)、ピアノのミカ・トーマス(Micah Thomas)、アルトサックスのイマニュエル・ウィルキンス(Immanuel Wilkins)、ドラムスのクウェク・サンブリー(Kweku Sumbry)というユニークなクインテット編成。
ハリシュ・ラガヴァンのベースは、低音やコードの基音を支えるといったベースの従来の役目よりも、さらにアートとしてのベースの在り方を重視し模索しているように思える。難解なベースラインだが、NYのジャズシーンの最先端が求める響きを体現しているのが、彼のベースなのだろう。
ハリシュ・ラガヴァンのルーツは南インドにあり、両親はタミル語を話すという。今作では随所に彼のアイデンティティが垣間見える。
例えば、(4)「Sangeet」はインドの伝統的な結婚式の2〜3日前に行われる女性たちによる歌や踊りの儀式のことだし、(5)「I’ll Go and Come Back」は、タミル語での「さようなら」を表す言葉の翻訳だ。アルバムの最後に収録されたベース独奏曲も、彼のアイデンティティを表現している。
おそらく、ハリシュ・ラガヴァンというベース奏者の演奏はジャズの最先端といわれるニューヨークのシーンで大きな影響を及ぼし、これからのジャズの発展に多大な影響を及ぼすのだろう。
ジャズが大衆音楽から決別し、アートとして発展を遂げる現在の音楽シーンの中で、ハリシュ・ラガヴァンという孤高のベーシストの存在は大いに注目したいところだ。