ギター少年の憧れだった「スーパーギタートリオ」
かつて、“スーパー・ギター・トリオ”と呼ばれた3人のギタリストがいた。
わずか19歳で名曲「Spain」で有名なチック・コリアのバンド、リターン・トゥ・フォーエヴァー(Return to Forever)に加入した米国出身のアル・ディ・メオラ(Al Di Meola)。
インド音楽に傾倒し自らもヒンドゥー教に改宗した英国出身の超絶ジャズギタリスト、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin)。
フラメンコギターの革新者として知られるスペイン出身のパコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)。
この3人が集ってギターバトルを繰り広げたライヴ盤『Friday Night In San Francisco』はもはや伝説だ。
今となっては「スーパーギタートリオ」というネーミングセンスには流石に古さは禁じ得ないが、当時は彼らの演奏にギタリストたちは皆恐れ慄き、初心者から上級者まで彼らの虜になった。おそろしく“速く”、それだけでなく正確無比な彼らの演奏はロック少年たちをジャズに傾倒させ、さらにはフラメンコへの畏敬の念を持たせるには充分すぎた。
21世紀のはじめ、インターネットの黎明期。かの「2ちゃんねる」掲示板の音楽板では、“誰が一番上手いギタリストか?”という話題で必ずSランクとしてパコ・デ・ルシアをはじめ彼らの名前が必ず熱く議論されたものだ(この話、通じる人いるかな…)。
パコは死んだ。
あれからもう6年近くも経っていたのか…と驚いたけど、パコ・デ・ルシアは2014年2月に心臓発作でこの世を去った。享年66。
多くの元・ギター少年たちはパコ・デ・ルシア逝去のニュースでスーパーギタートリオを瞬間的に思い出したかもしれないが、おそらくはその後すぐに、彼らの名前をまた忘れ去ってしまっていただろう。
2020年に入って、再び彼らを思い出す機会があった。
ジョン・マクラフリンとアル・ディ・メオラが相次いで新譜を発表したのだ。
ジョン・マクラフリン『Is That So?』
スーパーギタートリオの一人、英国出身ジョン・マクラフリンの新譜『Is That So?』はインドを代表する歌手シャンカール・マハーデーヴァン(Shankar Mahadevan)と、インドの打楽器タブラの神様ザキール・フセイン(Zakir Hussain)とのスピリチュアル・インディアン・ジャズだ。
制作に6年の歳月を費やしたという本作では、マハヴィシュヌ・オーケストラ(Mahavishnu Orchestra)やシャクティ(Shakti)といった自身のバンドでインド音楽との融合を図ってきたこの偉大なギタリストの軌跡の集大成とも言える深淵なサウンドを聴くことができる。
ジョン・マクラフリンはこの作品ではかつてのように超絶テクでアコースティックギターを掻き鳴らすようなことはせず、全編にわたって幻想的なギターシンセを響かせており、なんというか“悟りの境地”に至った仙人のような佇まいだ。
アル・ディメオラ『Across the Universe』
アル・ディ・メオラは2020年3月にビートルズのカヴァーを集めた『Across the Universe』をリリース予定。現時点でアルバムから先行配信曲(6)「Strawberry Fields Forever」を聴くことができる。MVも公開されているが、驚くのはここでもタブラの音が聴こえることだ。ジョン・マクラフリンのアルバムと違ってエッセンス程度ではあるが、インド音楽の影響がこんなところにも…と思うと感慨深い(ビートルズのジョージ・ハリスンもインド音楽に傾倒していたので自然な流れなのかも)。
アル・ディメオラは相変わらず弾きまくっている。
エレキギターも、スティール弦のアコースティックギターも、クラシックギターも。どれも全部ピック弾きで。今時片方のチャンネルに寄ったドラムスの音も逆に新鮮で素晴らしい。
スーパーギタートリオで彼を知った人なら、この新譜は嬉しいに違いないと思う。彼が音楽的に多大な影響を受けたビートルズの作品集というのも親しみやすく、2013年にヒットしたビートルズ・トリビュートの『All Your Life』の続編として楽しめる作品になるだろう。
アルバムが全曲公開となるのは3月の予定のようだ。