独創的な“クラシック・ミーツ”
クラシック音楽のジャズアレンジなんて世の中にゴマンとあるが、ドイツのピアニスト/作曲家のマルクス・シンケル(Marcus Schinkel)のトリオがギタリストのヨショ・ステファン(Joscho Stephan)を迎えて録音した2019年作『Classic Meets Gypsy』は、それら凡百の“ジャズ風クラシック”とは一味も二味も違う作品だ。
本作はありがちな“クラシック meets ジャズ” ではなく、タイトル通り“クラシック meets ジプシージャズ”。ジプシー・ジャズ・ギターの名手、ヨショ・ステファンのプレイが光る、この手の作品が苦手な方にもぜひ聴いてもらいたい逸品。
クラシックといっても誰もが知っているような曲は少なく、リストの(4)「愛の夢(Liebestraum)」、ポルタメントが効いたシンセサイザーが印象的なドビュッシーの(6)「夢(Reverie)」や映画音楽(8)「ゴッドファーザーのテーマ(Brucia La Terre (The Godfather)」くらい(ん…?これはクラシックなのか…?)ではないだろうか。
他にもボッサ風にアレンジされたシューマンの(3)「お芝居の思い出(Nachklänge aus dem Theater)」、モーツァルトのフィガロの結婚より(7)「自分で自分が分からない(Non So Più)」など収録されているが、愛好家でないと元ネタがクラシックだとは気づかないレベルでアレンジされ、演奏されている。
個性的な活動を続ける音楽家の出会い
ピアニストのマルクス・シンケル(Marcus Schinkel)は1968年ドイツ生まれ。これまでもベートーヴェンの楽曲をジャズで料理した『News from Beethoven』(2004年)、『9 Symphonies』(2009年)など、クラシック音楽を題材としたジャズをライフワークとしてきた。
本作でも持ち前の硬派なジャズピアノだけでなく、シンセサイザーも演奏するなど多彩なアイディアを魅せる。
ジプシー・ジャズギタリストのヨショ・ステファン(Joscho Stephan)は1979年ドイツ生まれ。
幼少期に父親のガンター・ステファン(Günter Stephan)の指導のもとギターを始め、クラシックギターやジプシージャズを学んだ。今ではその父親をリズムギターに従え、現代最高峰のジプシージャズを演奏するギタリストとして人気だ。これまでにも伝統的なジプシージャズのみならず、ロックやブルース、さらにはクレズマーなど様々な音楽とジプシージャズの融合を試みた良作を多数リリースしている。
Marcus Schinkel – piano
Joscho Stephan – guitar
Fritz Roppel – bass
Wim de Vries – drums