ミナス新世代、その強力な“横の繋がり”
先日ダヴィ・フォンセカという素晴らしいアーティストが彗星のごとく登場し、ますます発展著しいブラジル・ミナス界隈の音楽シーン。優れた若手音楽家たちが特定のバンドやグループに所属することなく、横の繋がりで様々なプロジェクトに参加し、互いに影響しあい高め合っている。世界中どんなシーンを見回しても、これほどまでに音楽的に充実し面白い音楽シーンはないだろう。
クラシック音楽の基礎に、西洋のポップス、ジャズの即興、そしてショーロやボサノヴァなどブラジル独自の音楽が高次元で融合し、リズムやメロディ、和声といった音楽を構成するあらゆる要素をネクストレベルに導くルネッサンスは、今まさにブラジル・ミナスで起こっている。
ミナスジェライス州都ベロオリゾンチを拠点に活動する7弦ギター奏者/作曲家のルーカス・テレス(Lucas Telles)もそんな“ミナス新世代”の新たな注目株の一人だ。2019年夏に発表されたデビューアルバム『Outono』は、日本では全くといっていいほど話題になっていないが、充実したシーンの一端を垣間見ることができる傑作だ。
ルーカス・テレスは、トカ・ヂ・タトゥ(Toca de Tatu)というショーロの4人組バンドで既にその名を知られていた7弦ギタリストだ。
ブラジル音楽の重鎮カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)が新譜のパートナーとして指名したクラリネット奏者、イヴァン・サセルドーチ(Ivan Sacerdote)との共演歴もあるなど、ショーロやサンバの基礎を軸にしつつミナス新世代の面々と繋がり、その作曲技法や演奏技術を磨き上げてきた。
アルバムにはミナス新世代の中核を担うフルート奏者/SSWのアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)にベーシストのブルーノ・ヴェローゾ(Bruno Vellozo)や、前出のダヴィ・フォンセカのアルバムで印象的なビリンバウやヴィブラフォンの演奏を聴かせていたナタリア・ミトリ(Natália Mitre)の姉であり、そしてルーカス・テレスの妻でもあるピアニストのルイーザ・ミトリ(Luísa Mitre)、DTM用のドラムのプラグイン音源なども出しているドラマー、ガブリエル・ブルース(Gabriel Bruce)といった個性的な面々が揃う。
アルバムでは楽曲ごとに編成を変え、様々なジャンルの音楽から影響を受け独自に進化した“ミナス新世代”としか呼べないようなサウンドが繰り出される。複雑なリズム、高度なアドリブソロ。それでいてその音楽を聴いて楽しむことに小難しい知識を必要としない極上のチェンバーポップ。
横で繋がるミナスの音楽家たちから、これからも目が離せない。
Lucas Telles – guitar
Luísa Mitre – piano
Alexandre Andrés – flute
Breno Mendonça – tenor sax
Bruno Vellozo – bass
Gabriel Bruce – drums