ささやき系女性Vo.も印象的なフレンチ・アヴァンギャルド・ジャズ

For a Word

今最高にぶっとんだアヴァンギャルド・ジャズバンド

フランスのジャズピアニスト、ゴーティエ・トゥー(Gauthier Toux)を中心とするピアノトリオに、スイスのヴォーカリスト、リー・マリア・フライス(Léa Maria Fries)が加わり新たに始動したプロジェクト、『For a Word』は、これまでも良作を発表していながらいまいち注目されることのなかったこの新鋭ピアニストの存在感を充分に示す、素晴らしいクオリティの作品だ。

アルバムはフランスのベーシスト、ジュリアン・エルネ(Julien Herné)とスイスのドラマー、ヴァレンティン・リヒティ(Valentin Liechti)と共に2019年の始めにスイスで録音された。
(1)「For a Word」から再生してみると、本作がなぜ「ジャズ」にカテゴライズされているか理解に苦しむだろう。フランスを代表するサックス奏者、続くエミル・パリジャン(Emile Parisien)も参加した(2)「Talk to Me」も含め、音作りはかなりアヴァンギャルドだ。(3)「Prinzess」でようやく曲らしい曲が流れるが、内容は現代アート的。好きな人は好きだが、万人におすすめできるかというと疑問符がつくやつ。
──だがしかし、彼らはどうせ万人受けなど最初から狙っていないし、媚びずに自分たちが表現したい音楽をそのまま表現しているだけなのだ。そんな彼らの音楽は間違いなくかっこいいし、世間に紹介する価値がある。
エレクトロニカを経由したジャズ、という文脈で聴けば、彼らの音はすんなり受け入れられると思う。(9)「Shipwreck」とか、めちゃめちゃかっこいいぞ。

(3)「Prinzess」のMV。
ラップ、あるいはスポークン・ワードに近いヴォーカル、歪んだエレクトリックピアノで奏でられる奇怪なフレーズ、重厚感のあるリズム。

ゴーティエ・トゥー(Gauthier Toux)は1993年生まれのピアニスト/作曲家。
8歳からヤマハの音楽教室に通い、クラシックピアノを始めた。後にローザンヌの音楽大学でジャズを専攻し、2015年にジャズパフォーマンスの修士号、2017年には音楽教育学の修士号を取得して卒業している。
2013年に自身のトリオを結成、これまでに『Unexpected Things』(2016年)、『The Colours You See』(2018年)といった現代的なジャズ作品をリリースしているが、いずれもアコースティックな作品で本作のようなエレクトロニックな要素はなかった。
本作が肌に合わなかった現代ジャズファンの方には、ぜひ前述の2作品を聴いていただきたい。

14/4拍子で演奏される(6)「Sense of Complication」のライヴMV。
プログレッシヴな音作りもかっこいい。

Léa Maria Fries – vocals
Gauthier Toux – piano, keyboards
Julien Herné – bass
Valentin Liechti – drums

For a Word
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