ルイーザ・ミトリ、ミナス新世代の新たな顔
ブラジル・ミナスジェライス州出身のピアニスト/作曲家ルイーザ・ミトリ(Luísa Mitre)の2018年のデビューアルバム『Oferenda』は、日本でも特に人気の高いブラジル・ミナスの近年の音楽の若くも洗練されたシーンを象徴し得る、素晴らしい作品だ。
アレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)、ハファエル・マルチニ(Rafael Martini)、アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)、ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)といった近年続々と現れてきた異様にレベルの高い音楽性で注目される“ミナス新世代”の面々と同様に、ミナスジェライス連邦大学(UFMG)の音楽科を履修。ショーロ、バイアォンなどのブラジル古典音楽の影響を受けながら、ジャズ、クラシック、ポップスの垣根のない音楽性で注目すべきアーティストだ。
ルイーザ・ミトリが全曲の作曲とピアノを弾く本作にはその規格外の音楽性でここ日本でも大きな話題となったダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)の2019年作『Piramba』にも参加していた実妹でヴィブラフォン奏者のナターリア・ミトリ(Natália Mitre)とベースのカミラ・ホーシャ(Camila Rocha)も参加。
他に2019年の第19回BDMGインストゥルメンタル賞を受賞したフルート奏者のマルセラ・ヌネス(Marcela Nunes)、ドラマーのパウロ・フロイス(Paulo Fróis)といった学友が参加し、複雑で繊細、かつユニークな楽曲群を一糸乱れぬ完璧なアンサンブルで聴かせてくれる。
現代ミナスの音楽シーンの充実ぶりが伺える良曲揃い
(1)「Valsa da Espera」はピアノ、ダブルベース、フルート、ヴィブラフォンの女性4人で奏でられるしっとりとしたスローテンポのワルツ。遠くに微かに聴こえる小鳥のさえずりも趣深い。
(2)「Chegada」は同世代のミナスの音楽仲間たちの作品にも通じる、若く瑞々しい感性が高い音楽的知性のもと結実した佳曲で、このシーンの充実ぶりを伺わせるにも充分だ。
アルバムのタイトルにもなっている(3)「Oferenda」は16分音符で繰り返される複雑なピアノの左手の音型と、それとは対照的にゆったりとロングトーンを奏でるフルートのメロディーが強く印象に残る。
アルバム後半でも個性的なショーロ風の(5)「Rodeando」、バイアォンやシャシャードといったブラジル北東部の伝統的なリズムの影響を多分に受けた(6)「A Fuga do Tatu」など、バリエーション豊かな曲が続く。
本作はミナス・ジェライス州の最高のインストゥルメンタル作品に贈られるマルコ・アントニオ・アラウージョ賞(Prêmio Marco Antônio Araújo)も受賞している。
ミナス音楽ファンやブラジル音楽ファンのみならず、優れたインスト作品を聴きたい方に是非おすすめしたい傑作だ。
Luísa Mitre – piano
Natália Mitre – vibraphone
Camila Rocha – bass
Marcela Nunes – flute
Paulo Fróis – drums
Guest :
Abel Borges – percussion