ポルトガル・ファドとエレクトロニカの意外な融合
ポルトガルの若きファド歌手、リナ(Lina)とスペイン出身のマルチ奏者/プロデューサーのラウル・レフリー(Raül Refree)の2020年作『Lina_Raül Refree』は、ポルトガルの伝説的ファド歌手アマリア・ロドリゲス(Amália Rodrigues)が愛した楽曲群を現代的にアレンジした興味深い作品だ。
アマリアがレパートリーとしていた(9)「Barco Negro(暗いはしけ)」、(7)「Maldição(暗き宿命)」といったファドの名曲を、稀代のプロデューサーであるラウル・レフリーはアナログ・シンセサイザーやエレクトリック・ピアノでリナの歌を包み込むように演奏。従来のファドはポルトガルギターやクラシックギターの伴奏が普通だが、革新的なプロデューサーとして知られるラウル・レフリーはそうしたファドの常識を覆す挑戦的なアレンジを施している。
本作がデビューとなる歌手リナは、「ファドで何かこれまでと違うことをすること」という願いをこのプロジェクトにぶつけた。アマリア・ロドリゲスの作品にも参加していたラウル・レフリーは、リナの想いに現代的なサウンドプロダクションを用いることで応えた。
今作ではアルバムのラストに収録された小品(12)「Voz Amália de nós」でのみ、ファド本来の伴奏楽器であるギターを聴くことができる。
“ファドの女王”アマリア・ロドリゲスと、その再構築
アマリア・ロドリゲス(Amália Rebordão Rodrigues、1920年7月23日 – 1999年10月6日)は“ファドの女王”とも呼ばれ、1999年に亡くなった際にはポルトガル政府が3日間の喪を宣言するほど、ポルトガルの伝統音楽であるファドを象徴する国民的歌手だった。
貧しい家庭に生まれたが、その絶世の歌の才能が認められ国民的歌手にまで上り詰め、死後はリスボンのサンタ・エングラシア教会にエンリケ航海王子やヴァスコ・ダ・ガマらとともに、ポルトガルの国民的英雄10人のうちの一人として葬られた。
アマリア・ロドリゲス生誕100周年を迎える2020年、ポルトガル国民に愛され、さらなる進化を目論むファドの復興を印象付ける傑作が誕生した。