多くの音楽家を魅了したグナワという音楽
ブライアン・ジョーンズ、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスなど世界中の多くの音楽家がその魅力に取り憑かれてきた北アフリカの民族音楽、グナワ(Gnawa)。
アフリカの精霊信仰(アニミズム)とイスラム神秘主義(スーフィズム)が融合し16世紀頃に誕生したとされる音楽で、弦楽器ゲンブリと鉄製の大型カスタネット、カルカベというシンプルな編成で呪術的に繰り返すグルーヴは宗教的儀式に参加した人々をトランス状態に誘うとされている。
グナワ音楽×北欧スカンジナビア、新鮮な驚きに満ちた“グナワ・ジャズ”
北欧ジャズの良作を次々と輩出するドイツのレーベル、ACTからリリースされた『Magic Spirit Quartet』はグナワ・ジャズとも呼ぶべき興味深い作品だ。
カルテットのメンバーはモロッコ出身のゲンブリ/ウード/ギターとヴォーカルを担当するマジッド・ベッカス(Majid Bekkas)、スウェーデン出身のトランペット奏者ゴラン・カイフェシュ(Goran Kajfeš)、同じくスウェーデンのピアニスト、イェスペル・ノルデンシュトロム(Jesper Nordenström)、そしてデンマーク出身のドラマー、ステファン・パスボーグ(Stefan Pasborg)という編成。
全ての楽曲の演奏はほぼワンコードで進行する。
12分におよぶ(1)「Aicha」はゲンブリが延々とベースラインを奏でる上で呪術的な歌唱とトランペットやピアノの即興演奏が繰り広げられ、シンセサウンドも効果的に空間を演出。グナワのリズムによる陶酔が極まってきた9:30過ぎに突然の転調とテンポアップで更なるトランス感覚を呼び起こす。控え目に言っても「ヤバい」音楽である。
ちなみにこの曲は5拍子のリズムだ。人々を踊らせ、トランスさせる音楽は4拍子・4つ打ちの音楽だけではないということをまざまざと見せつけられる。世界は、実に広い。
透明感のあるピアノやトランペット、空間系エフェクトはいかにも北欧ジャズという美しさだが、アルバム全編を通してその場を制しているのはやはりマジッド・ベッカスが持ち込んだグナワ音楽だ。
Majid Bekkas – vocals, guembri, oud & electric guitar
Goran Kajfeš – trumpet, electric trumpet & percussion
Jesper Nordenström – piano, organ, synthesizers & spinet piano
Stefan Pasborg – drums, percussion & tuned gongs