ベルリンからアフロ・ブラジル音楽を発信するナタリー・グレフェル
アフリカ大陸南東部のモザンビークに生まれ、デンマークで育ち、現在はドイツ・ベルリンで活動する女性SSWナタリー・グレフェル(Natalie Greffel)のデビュー作『Para Todos』はブラジル音楽であるサンバを基調としながら、ジャズやサイケロックといった要素も盛り込んだ少し奇妙でとても面白い作品。
ほぼポルトガル語で歌われる彼女のオリジナル曲(ラストの1曲だけ、シコ・ブアルキの作品)はサンバのリズムに根ざしているが、ブラジル人がやるような純粋なサンバではないが、サンバと同じくルーツをアフリカに持つ彼女特有の生命力に満ち、ジャジーな彩りも添えて野性味のある洗練を見せる。
ジャズボッサの軽やかなリズムで演奏される(1)「Não Sabia Nem Começar」や(2)「Toquei」も良いが、アイルト・モレイラのようなブラジリアン・グルーヴが渦巻く(6)「Para Todos (Stuttgart)」などはとても魅力的な演奏だ。
ナタリー・グレフェルとブラジル音楽の関係
ナタリー・グレフェルの音楽との出会いは偶然だった。
子供の頃、音楽には縁のなかった父親が宝くじに当選し、彼女に子供用のキーボードを買い与えた。それから彼女はピアノのレッスンを開始し、音楽への情熱が芽生えていったのだという。
2010年に音楽学校でジャズを学ぶためにベルリンに引越してから本格的に音楽活動を開始し、Natedal、Onom Agemo & the Disco Jumpers、Radio Citizenといったいくつかのグループで作詞作曲、ヴォーカリスト、ベーシストなどとして活躍。様々なプロジェクトで持ち前の柔軟性を発揮しながらも、その一方でヨーロッパのジャズに幻滅を感じ、代わりに幼少期に母親が演奏していたアフロ・ブラジル音楽に惹かれ、故郷モザンビークとブラジルの文化的なつながりを探るようになっていった。
2016年、念願のブラジルを訪れることが叶い、そこでサンバのレコーディングに参加するなど半年間現地の音楽に没頭。帰国後にベルリンで行われたクレオール音楽コンテストで優勝すると、ブラジル音楽の重鎮エヂ・モッタ(Ed Motta)のすすめでデモを作ることになり、晴れてのソロデビュー作『Para Todos』につながった。