鬼才フアン・ベルビス率いるOcho、多彩な音を詰め込んだ2nd
アルゼンチンの鬼才、フアン・ベルビス(Juan Belvis)率いるグループ、オチョ(Ocho)の2015年のデビュー作以来のセカンドアルバム『8 II』(2019年)が素晴らしい。
フアン・ベルビス自身が「このアルバムは2019年で最も美しく、分類することができない作品のひとつだ」と語っている通り、サウンドはロック、ジャズ、サイケ、メタル、カンドンブレ、アフロビート、エレクトロニカなどのごった煮。ビートはとても重いが、SSWとしてソロや別バンドでも活躍する可憐な女性ヴォーカル、マリアーナ・ミチ(Mariana Michi)の声は複雑な音楽の緊張を和らげ、サウンドの重心を空中の絶妙な位置に浮遊させる。
今作ではアカ・セカ・トリオのアンドレス・ベエウサエルト(Andrés Beeuwsaert)やHuevoのフリアン・バグリット(Julián Baglietto)、キューバの人気女性SSWジューサ(Yusa)といったゲストも参加。
一見ストレートの豪速球に見えながら、凄いスピードのままえげつなく曲がる変化球のような恐るべき演奏が繰り広げられる。
(1)「Pelicula en el Aire」の冒頭で聴こえる印象的な音はヴィンテージ・キーボードのフィリコルダ・オルガン(Philicorda Organ)の音だ。家電で有名なオランダのフィリップス社が1960年代に初めて製造した電子楽器で、なかなかお目にかかれないレアな機材である。16分音符で刻まれる細かいビートに乗るフィリコルダ・オルガンやブラス隊、そして豊かなハーモニーで歌われる男女ツインヴォーカルが心地良い。
アルゼンチンを代表する人気鍵盤奏者アンドレス・ベエウサエルトが参加した(3)「La Era Beat」はチルアウト感もあり中毒性の高い楽曲だが、これはまず衝撃的すぎるMVを観ていただくのが良いだろう。ちょっとこの世界観、凄すぎないだろうか…。
その後も様々なジャンルがごちゃ混ぜになった圧巻のミクスチャーがサイケデリックに展開される。
──となるとやはり気になるのが、このバンドを率いるフアン・ベルビスとはいったいどんな経歴の人物なのだろう、というところ。
Ocho を率いるフアン・ベルビス
スペイン語で数字の「8」を表すOchoは、アルゼンチンの作曲家/ピアニスト/歌手のリリアナ・ビターレ(Liliana Vitale, 伝説的バンドMIAの鍵盤奏者リト・ビターレの実姉)を母に、SSWのノノ・ベルビス(Nono Belvis)を父に持つSSW/プロデューサーのフアン・ベルビスを中心に結成。彼とマリアーナ・ミチによる魅力的な男女ヴォーカルに、ベース、ドラムス、そしてトランペットとトロンボーン、バストロンボーンの特徴的な3管でバンドを構成している。
Ochoでは作曲、ヴォーカル、ギター、ピアノ、ベース、ドラムスなど何でもこなしてしまうフアン・ベルビスは1981年生まれ。両親が音楽家というだけあってビートルズ、フレディ・マーキュリー、ニルヴァーナ、ビョーク、ポール・ヴァレリー、ビオレータ・パラ、マイルス・デイヴィス、サラ・ヴォーン、アントニオ・カルロス・ジョビン、さらにはストラヴィンスキーやバッハなど影響を受けた音楽はとにかく幅広い。
そしてやはり、母方の伯父であるリト・ビターレ(Lito Vitale)が在籍した人気プログレバンド、MIAからの影響も濃いように思う。
アルゼンチン音楽が繋いできた伝統音楽とロックの歴史。インターネットの時代の世界の音楽からの影響。Ochoは、芸術一家に生まれたフアン・ベルビスのそんな雑多な音楽観が余すところなくしっかりとサウンドに反映されたバンドだ。こんな面白い音楽、なかなかない。
OCHO :
Juan Belvis – vocal, guitar, piano, Philicorda, bass, drums, percussion
Mariana Michi – vocal, guitar (8)
Juan Valente – guitar, Minimoog, chorus
Luciano Vitale – bass, drums, percussion, chorus
Pedro Bulgakov – drums
Sebastián Saenz – trumpet, flugel horn
Gonzalo Pérez – trombone
Daniel Bruno – trombone
Guests :
Camila Nebbia – tenor saxophone (1, 4, 8, 9, 10)
Martin Vijnovich – drums (1, 3, 10)
Andrés Beeuwsaert – Rhodes piano (3)
Hernán Segret – bass (4, 5)
Emme – chorus (7)
Julieta Rada – chorus (7)
Victoria Piczman – chorus (7)
Julián Baglietto – vocal (8)
Yusa – vocal (9)