打楽器奏者/作曲家/シンガー、Yshai Afterman の2ndアルバム
イスラエルのSSW/ドラマー/パーカッショニストのイシャイ・アフターマン(Yshai Afterman)による2019年作『Naomi』は、カルテット編成のジャズバンドに男女ヴォーカルが印象的な素晴らしい作品だ。そのメンバーの多様なバックグランドから繰り出される演奏は、所謂“イスラエルジャズ”の範疇に止まらない。
(2)「Or」は変拍子のリズムに乗せたピアノと男女ヴォーカル、そしてオフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)によるインドの楽器シタールを模倣したギター演奏が強く印象的に残る不思議な曲で、イスラエルジャズの底知れぬ魅力を感じさせてくれる。
(5)「Do Not Stand at My Grave and Weep」(私のお墓で佇み泣かないで)は日本でも「千の風になって」の訳詞で知られる米国ボルティモアの主婦メアリー・フライの詩にイシャイ・アフターマンが曲をつけたもの。
アルバムタイトルにもなっている(7)「Naomi」はヘブライ語で書かれた旧約聖書に登場する女性、ナオミを題材にした楽曲で、タル・ベン・アリ(Tal Ben Ari)の美しい声が響く荘厳なバラード。オレル・オシュラット(Orel Oshrat)による舞うようなピアノも素晴らしい。
メンバーもそれぞれ個性的、今後の活躍に要注目
イシャイ・アフターマン(Yshai Afterman)はイスラエル出身のパーカッショニスト/作曲家/教育者。インドやトルコ、ペルシャ、アラブなど多様な音楽を吸収したスタイルを特長とし、様々なプロジェクトで活動。世界中でパーカッションのマスタークラスを開催している。イスラエル・ネタニヤフ首相邸にて、米国のバラク・オバマ元大統領やジョン・ケリー元国務長官の前で演奏を披露したこともあるようだ。
23歳から本格的にパーカッション奏者として活動をはじめ、イスラエルを代表する打楽器奏者、ゾハール・フレスコ(Zohar Fresco)に師事。同時に著名な音楽学者で作曲家であるペルシャのタール奏者、ピリス・エリヤウ(Piris Eliyahu, マーク・エリヤウの父親)から中東の古典音楽を学んでいる。
2017年に『A line From Here to Nowhere』(これも傑作!)でデビュー、今作『Naomi』は2作目となる。
サイドマンたちの経歴もまた興味深い。
ピアニストのオレル・オシュラット(Orel Oshrat)はエルサレム音楽舞踏アカデミー(Academy of Music and Dance in Jerusalem)を卒業した若いピアニストで、まだリーダー作は出していないものの、クラシックピアノの確かな基礎と、アドリブでは随所に中東特有のエキゾチックな旋律が飛び出すところなど、同国を代表するジャズピアニスト、オムリ・モール(Omri Mor)に似たスタイルを感じさせる。
ギターとウード、さらには(8)「One Day」ではトランペットでも非凡な才能を見せるオフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)はコーカサス、バルカン半島、トルコといった多様な音楽文化を学んできた才人で、特に近年はインドのカルカッタで巨匠ブッダデヴ・ダス・グプタ(Buddhadev Das Gupta)に師事しインド古典音楽を学んだという経歴の持ち主。”The Whale Guitar”と呼ばれる多数の共鳴弦を張った特注のギターを武器としている。
Yshai Afterman – percussion, vocals
Orel Oshrat – piano, vocals
Tal Ben Ari – vocals, percussion
Daniel Sapir – bass, vocals
Ofer Mizrahi – guitars, oud, trumpet