予断許さぬJAZZ。米天才トランペット奏者、アンブローズ・アキンムシーレ新譜が凄い

Ambrose Akinmusire - on the tender spot of every calloused moment

米天才トランペッター新譜『on the tender spot of every calloused moment』

現在進行形のジャズの象徴的なトランペッター/作曲家、アンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)の新作『on the tender spot of every calloused moment』は個人的には聴くのに体力を要するアルバムだった。

ピアノにサム・ハリス(Sam Harris)、ベースにハリシュ・ラガヴァン(Harish Raghavan)、ドラムにはジャスティン・ブラウン(Justin Brown)という個性派を揃えたカルテットでの演奏は、やはりそれぞれ主張が強く、どの音も聴き逃すことができないと身構えてしまう。演奏者側の張り詰めた緊張感がこちらにめっちゃ伝わってくる音なのだ。

というわけで最初は正座して聴いているわけだけども、やはりこれは爆音で聴きながら何も考えずにこの音楽に浸った方が良さそうだぞ、となり、すぐにアルコールを欲するようになる。彼の音楽は前作『Origami Harvest』でもそうだった。音の洪水としてシャワーのように浴びるには最高なのだが、軽い気持ちで聴き流すことを許さない音楽。

一見フリージャズのように展開する部分も多いが、全ては緻密に計算し尽くされ作曲されたアンサンブルだ。トランペットのソロで始まる(1)「Tide of Hyacinth」で、フリーな即興が終わり、2:28あたりから湧き上がるように始まるテーマの部分にはゾクゾクする。その後の展開も信じられないほどにクレイジーで、壊れそうなほど自由な即興になったかと思えばシームレスに緻密なアンサンブルに戻ったりと、ジャズの面白みが詰まった演奏が続く。そして5分過ぎからはゲスト参加のキューバ出身ヴォーカリスト、イェスス・ディアス(Jesus Diaz)によるヨルバ語のヴォーカルがアキンムシーレの原体験を夢のように描き出す。

(3)「Cynical sideliners」にはLAのユニット”Knower”の個性派ヴォーカリスト、ジェネヴィーヴ・アルタディ(Genevieve Artadi)がゲスト参加。ローズピアノの伴奏に乗せて一度聴いたら忘れられないその個性的な歌声を披露している。

2018年に49歳の若さで急逝したロイ・ハーグローヴ(Roy Anthony Hargrove)に捧げられた(9)「Roy」も名演だ。

(10)「Blues」の冒頭1分半で出している音は、いったい何なのだろう。確かにアキンムシーレのトランペットから漏れ出す音なのだと思うが、トランペットの経験がない私にはこのような音をどうやって出しているのか分からないし、しかもこの音を通常、彼のように音楽として昇華できるものなのかも分からない。

アンブローズ・アキンムシーレ 略歴

アンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)はナイジェリア出身の父親とミシシッピ州出身の母親の元、1982年に生まれ、カルフォルニア州オークランドで育った。高校のジャズアンサンブルで演奏していた時に、ワークショップを行うために同校を訪れていたサックス奏者スティーヴ・コールマン(Steve Coleman)の目に留まり彼のバンド、ファイヴ・エレメンツ(Five Elements)のメンバーとしてヨーロッパツアーに抜擢された。

ファイヴ・エレメンツに在籍しつつ、高校卒業後はマンハッタン音楽学校に進学。その後はカリフォルニア大学の修士課程に進学し非営利ジャズ教育機関セロニアス・モンク・インスティテュート(現ハービー・ハンコック・インスティテュート)に入り、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)、テレンス・ブランチャード(Terence Blanchard)といった巨匠たちに師事してきた。

2007年にはセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションとカーマイン・カルーソー・インターナショナル・ジャズ・トランペット・ソロコンペティションの両方で優勝。翌年にデビューアルバム『Prelude: to Cora』をリリースした。2011年には名門ブルーノート・レコードから『When the Heart Emerges Glistening』をリリースし、一躍スターダムにのし上がった。

Ambrose Akinmusire – trumpet
Sam Harris – piano, Rhodes piano
Harish Raghavan – bass
Justin Brown – drums

Guests :
Genevieve Artadi – vocals (3)
Jesus Diaz – vocals (1)

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