独自の世界観が魅力の表現者、Renana Ne’eman
イスラエルの1991年生まれの女性シンガーソングライター/ハープ奏者、レナナ・ネーマン(Renana Ne’eman, ヘブライ語表記:רננה נאמן)のセカンドアルバム『Rebel Bell』。「反逆の鐘」という強烈なタイトルが冠された本作は、美しいハープの響きと英語とヘブライ語で歌われるダークな歌、そしてさりげなく洗練された音響処理などが相まってとても独特な魅力に満ちた作品だ。ハープでの弾き語りというのも世界中を見回してもなかなか珍しい。
(1)「The Charges」からサウンド、歌詞両面でいきなり強烈な衝撃が与えられる。英語詞(Apple Music には歌詞も登録されており閲覧できる)は様々な解釈ができそうなので詳しくは触れないが、とても生半可な気持ちで書かれたものではなさそうだ。
美しいハープの音色と柔らかな声質が特長的だが、流し聴くだけでは彼女の本質に触れることはできない。歌詞を見れば、間奏の切り裂くようなトランペットや不穏なシンセサイザーが急に意味を帯びたものに聴こえてくるようになる。
アルバムは全曲レナナ・ネーマンが作詞作曲と歌、ハープを演奏。
彼女をサポートする布陣もまた豪華だ。
プロデュース/鍵盤奏者のトム・ダロム(Tom Darom)とドラムスのタミル・マスカット(Tamir Muskat)、ベースのベン・ハンドラー(Ben Hendler)は2000年代にワールドミュージックシーンを席巻したバルカン・ビート・ボックス(Balkan Beat Box)のプロデューサー、メンバー。
さらには本作随一の美曲(8)「Winter Song」にはイスラエルジャズを代表するピアニスト、シャイ・マエストロの実妹でベーシストのガル・マエストロ(Gal Maestro)も参加している。
歌詞は多くがヘブライ語なので意味まで分からないのが残念だが、曲名にもしっかりと現れているように同国の複雑な歴史や政治的背景も含めた重いテーマを扱っている。だがそんな事情を知らずとも、彼女の演奏や歌を聴けばこの作品がただのポップアルバムでなく、表現者としての彼女の人生経験に裏打ちされた彼女自身による表現で語られた芸術であることは明らかだ。
強い個性が際立つアーティスト
レナナ・ネーマン(Renana Ne’eman)はイスラエルの著名な映画製作者の父親と神経科学者の母親のもと1991年に生まれた。ハープを始めたのは7歳の頃からだという。
高校時代にはジャズやピアノも学び、ニーナ・シモンやビリー・ホリデイといった歌手に強く影響されたようだ。「音楽とクリエイティヴの役割のひとつは抗議をすること」と語る彼女はイデオロギーを理由にイスラエルのユダヤ人に義務付けられた兵役を拒否するなど非常に強い心の持ち主で、移民や難民のために2年間国家奉仕するなど得難い経験もしたのち、2013年に『שנסון לציון』でデビュー。イスラエル音楽院で学んだ音楽への深い理解、クラシックとポピュラー音楽を区別なく高度に融合した作品性、そして何よりも他の同年代のアーティストにはそう多くは見られない直接的で鋭い政治的な歌詞で注目された。
そこから6年のスパンを経ての今作『Rebel Bell』は前作ではわずか1曲のみだった英語詞の割合も増え、アーティストとしてさらに大きく成長した姿を見せている。
イスラエル音楽とハープ
イスラエル音楽にハープという楽器はちょっとイメージしにくいかもしれないが、ハープは元々中東地域、エジプト〜メソポタミアが発祥の世界最古の楽器のひとつで、そこから世界各地に広がりヨーロッパではアイリッシュハープやコンサートハープ、東アジアでは箜篌といった形となり発展したとされている。イスラエルでは現在もハープは盛んに演奏されており、1959年に世界初のハープの国際コンクール「イスラエル国際ハープコンクール」が開催され、現在も世界中からハープ奏者が集う最も権威あるコンクールのひとつとして知られている。
ちなみに口琴のことをジューズハープ(Jew’s Harp = ユダヤのハープ)と呼ぶが、これは前述のハープとは起源の異なる全く別の楽器である。
Renana Ne’eman – harp, vocals
Tom Darom – keyboards, programming, backing vocals
Tamir Muskat – drums, percussions
Edo Gur – trumpet
Avner Kelmer – violin
Maya Belsiztman – cello
Ben Hendler – bass (1,6)
Gal Maestro – double bass (8)