南アフリカの最新注目ピアニスト。Sibusiso “Mash” Mashiloane
複雑に重なり合ういくつものリズム、声、楽器。めくるめく最新アフリカン・ジャズの世界。
南アフリカのピアニスト/作曲家のスィブスィソ・マシロアネ(Sibusiso Mash Mashiloane)の通算4作目となるアルバム『Amanzi Nemifula: Umkhuleko』は1曲目から傑作と確信できる作品だった。
ファンク、ヒップホップ、ネオソウル、ゴスペル、それにアフリカの伝統音楽から強いインスピレーションを受け、独自のジャズに昇華した彼の作品はなかなかに未知の連続でスリリングだ。強烈なポリリズムの繰り返しが呪術的な魅力を放つ(1)「Umthandazo」から、魔法のような音楽が続く。解像度の高いパーカッション、女性コーラス隊、コーラスにユニゾンするブラス、そしてスィブスィソ・マシロアネの個性的なピアノのハーモニー。これは本当に、南アフリカの現行ジャズシーンの面白さを象徴するような一枚だ。
アルバムの前半、(1)〜(10)までは中規模のバンド編成で演奏されたバージョン、(11)以降はそれらの曲をピアノトリオ編成で演奏したものが収録されている。
楽曲はほとんどがスィブスィソ・マシロアネのオリジナルだが、キューバの伝説的パーカッション奏者モンゴ・サンタマリア(Mongo Santamaria)の(3)「Tugela」や、学生時代の恩師でもある鍵盤奏者ニール・ジョセフ・ゴンサルヴェス(Neil Joseph Gonsalves)作曲の(10)「Unlockedkeys」の新解釈も収録。
(2)「Amanzimtoti」(曲名は南アフリカの海岸沿いの街、アマンジムティを指す)で絶えず聴こえる動物の鳴き声を模したようなヴォイスや、独特の跳ねた3拍子系のリズムと洗練されたジャズの融合は、アフリカ南部以外の地域からはまず現れない発想の音楽だ。
遅咲きだが熱心な努力でトップレベルに登り詰めた才人
スィブスィソ・マシロアネは1984年、南アフリカ共和国の東部の街ベサル(Bethal)の生まれ。影響を受けた音楽家はベキ・ムセレク(Bheki Mseleku)、ケニー・カークランド(Kenneth Kirkland)、ジョーイ・カルデラッツォ(Joey Calderazzo)、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)、ウィントン・ケリー(Wynton Kelly)、バド・パウエル(Bud Powell)など。
13歳の頃にピアノ演奏に興味を持ち始め、ピアノの基礎を教えた先輩ピアニストの助けを借りてまず最初に教会での演奏をはじめた。十代の後半、ジャズピアニストの演奏を観てその洗練されたハーモニーに衝撃を受け、クワズール・ナタール大学の交換留学プログラムを利用し米国ニュージャージー州のローワン大学の音楽学部に入学。チャーリー・パーカー(Charlie Parker)の「Kim」や「Donna Lee」を12のキー全てに移調して弾くなど熱心に研究と練習を積み重ねた。
彼には他の多くのピアニストのようにクラシック音楽のバックグラウンドがなかったため、2007年に南アフリカに帰国後クラシックピアノも習い始め、運指の癖や力の抜き方などを修正していったという。
2016年に『Amanz ‘Olwandle』でアルバムデビューすると、いきなりベストジャズアルバム賞(Mzantsi Jazz Awards 2017)を受賞。2017年作『Rotha』もベストアフリカンジャズ(All Africa Music Awards 2018)に輝くなど、今や南アフリカを代表する注目のピアニストとなった。
今作『Amanzi Nemifula: Umkhuleko』はデビュー作から7年連続で7枚のアルバムを出すという彼の計画における4枚目の作品。