南アフリカの豊かなジャズシーンを象徴する気鋭ピアニスト、スィブスィソ・マシロアネ6th

Sibusiso Mash Mashiloane - Music from My People

豊潤なリズムとハーモニーに彩られた南アフリカ・ジャズの快作

南アフリカ・ダーバンを拠点とする気鋭のピアニスト、スィブスィソ・マシロアネ(Sibusiso “Mash” Mashiloane)の新譜『Music from My People』は、ソロピアノで録音された前作『Ihubo Labomdabu』から打って変わり、ヴォーカリストを含む総勢17名のミュージシャンを迎えて制作された豪華な作品となった。

(1)「1976」は1976年6月16日に起こった反アパルトヘイト闘争「ソウェト蜂起」をテーマにしたもので、事件から45年後の2021年の同日に作曲したもの。アパルトヘイトの実態を世界中に知らしめたこの事件は南アフリカの歴史の中でも特に重要なもので、スィブスィソ・マシロアネが今作で冒頭に配置した意味も大きい。

アフリカ的な複雑なリズムが印象的な(2)「African Communal」はズールー語のウブントゥ(Ubuntu)の精神、つまり人々の絆や思いやり、謙虚さといった哲学にインスパイアされた曲で、アフリカ各地の様々な文化を受け入れる包容力を示す。

(2)「African Communal」

重いベースラインが繰り返される7拍子の(3)「Umnyanya」はンデベレ語で祝祭や式典を意味するタイトルの通り、忘我の高揚感のある約8分間。ベテランのテナーサックス奏者カヤ・マハラング(Khaya Mahlangu)のソロも良い。

その後もベキ・コザ(Bheki Khoza)のギターをフィーチュアした(4)「Freedom Day」、複雑で多層的なハーモニーが美しいボッサライクな(5)「Between You & Me」、複合拍子のリズムが心地よい(6)「Omalume」、グルーヴィーな(8)「Umagoduka」など聴きどころ満載の演奏が続く。

(8)「Umagoduka」

どこから聴いてもアメリカやヨーロッパにはない、ユニークな現代のアフリカン・コンテンポラリー・ジャズを思う存分に楽しめる作品だ。

遅咲きの努力家、Sibusiso “Mash” Mashiloane

スィブスィソ・マシロアネは1984年、南アフリカ共和国の東部の街ベサル(Bethal)の生まれ。影響を受けた音楽家はベキ・ムセレク(Bheki Mseleku)、ケニー・カークランド(Kenneth Kirkland)、ジョーイ・カルデラッツォ(Joey Calderazzo)、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)、ウィントン・ケリー(Wynton Kelly)、バド・パウエル(Bud Powell)など。

13歳の頃にピアノ演奏に興味を持ち始め、ピアノの基礎を教えた先輩ピアニストの助けを借りてまず最初に教会での演奏をはじめた。十代の後半、ジャズピアニストの演奏を観てその洗練されたハーモニーに衝撃を受け、クワズール・ナタール大学の交換留学プログラムを利用し米国ニュージャージー州のローワン大学の音楽学部に入学。チャーリー・パーカー(Charlie Parker)の「Kim」や「Donna Lee」を12のキー全てに移調して弾くなど熱心に研究と練習を積み重ねた。
彼には他の多くのピアニストのようにクラシック音楽のバックグラウンドがなかったため、2007年に南アフリカに帰国後クラシックピアノも習い始め、運指の癖や力の抜き方などを修正していったという。

2016年に『Amanz ‘Olwandle』でアルバムデビューすると、いきなりベストジャズアルバム賞(Mzantsi Jazz Awards 2017)を受賞。2017年作『Rotha』もベストアフリカンジャズ(All Africa Music Awards 2018)に輝くなど、今や南アフリカを代表する注目のピアニストとなった。
今作『Music from My People』はデビュー作から7年連続で7枚のアルバムを出すという彼の計画における6枚目の作品。

関連記事

Sibusiso Mash Mashiloane - Music from My People
最新情報をチェックしよう!