トルコのギタリスト、セリル・レフィク・カヤによるバリオス楽曲集
トルコ・イスタンブール出身の若き天才ギタリスト、セリル・レフィク・カヤ(Celil Refik Kaya)はこれまでに5枚のアルバムを出しており、ひとりの作曲家にフォーカスした「Guitar Music」シリーズはvol.1 がアルゼンチンの作曲家/ギタリストのホルヘ・モレル(Jorge Morel)曲集だったが、vol.4、vol.5でパラグアイのギタリスト/作曲家アグスティン・バリオス=マンゴレ(Agustín Barrios Mangoré)の楽曲を取り上げている。
南米の香り立つバリオスの楽曲は近年クラシックギタリストに人気が高く、様々な演奏家によって取り上げられているが、なかでもこのセリル・レフィク・カヤは技巧も表現力も随一だ。
ギターは“小さなオーケストラ”とも呼ばれるが、レフィク・カヤの情感豊かなクラシックギターの響きを聴くとなるほどな、と思う(「最後のトレモロ」の美しさといったら!)。
Barrios Mangoré: Guitar Music, Vol. 4
『Barrios Mangoré: Guitar Music, Vol. 4』(2018年)では、(1)「Las Abejas(蜜蜂)」や(4)「Danza」、(8)「Mazurka Apasionada(情熱のマズルカ)」、(16)「Una limosnita por amor de Dios(最後のトレモロ)」といった人気曲を収録。どれも難曲だが、セリル・レフィク・カヤは卓越した技巧で表情豊かに弾きこなしてみせる。比較的音の立ち上がりが早く、硬質な音色が爽やか。
Barrios Mangoré: Guitar Music, Vol. 5
前作から1年後の2019年には『Barrios Mangoré: Guitar Music, Vol. 5』で再度バリオスの楽曲に挑戦。本作も25曲入り、計1時間24分と凄まじいボリュームになっている。今作でも(1)「Waltzes, Op. 8: No. 3 in D Minor(ワルツ Op. 8, No. 3)」や(4)「Danza paraguaya No. 1(パラグアイ舞曲第1番)」、(7)「Chôro da saudade(郷愁のショーロ)」といった代表曲を収録。
セリル・レフィク・カヤ略歴
セリル・レフィク・カヤ(Celil Refik Kaya, 1991年 -)はトルコのイスタンブールに生まれ、6歳のときに父親の影響でクラシックギターを始めている。
2012年のジョアン・ファレッタ国際ギターコンクールで最優秀賞を受賞。
卓越したソリストとして以外に熱心な作曲家としても知られており、これまでにオーケストラ、ソロギター、ヴァイオリン、ピアノ、弦楽トリオ、デュエットなど100曲以上の作品も創作している。
パラグアイが誇るギタリスト/作曲家、バリオス・マンゴレ
アグスティン・ピオ・バリオス(Agustín Pío Barrios, 1885年 – 1944年)はパラグアイのギタリスト/作曲家/詩人。通称アグスティン・バリオス=マンゴレ(Agustín Barrios Mangoré)。少年期は音楽のみならず文学、外国語、数学などでも才能を見せ、13歳にして奨学金を得てアスンシオン国立大学音楽学部に通いパラグアイの歴史上で最年少の大学生となった。
大学卒業後は音楽に専念し、ギタリストとして、作曲家として、さらに詩人として驚異的な活躍を見せた。
生涯に300曲以上のギター曲を書いたが、その自筆譜は旅先で友人らに配ってしまうなど散逸しており、そのため同一曲でも各国で異なる版が出回ってしまっている。
スペインのギタリスト、アンドレス・セゴビア(Andrés Segovia)は1935年にバリオスを招いてロンドンでリサイタルを行わせたが、実際にその演奏を観たセゴビアは嫉妬のためか彼の才能を認めようとせず、その後の公演をすべて中止にさせ、弟子にもバリオスの曲を演奏することを禁じたという逸話も残っている。曰く、バリオスがメスティソ(混血)であるがゆえの人種差別も一因だったようだ。
その後、バリオスはセゴビアの弟子でもあったジョン・ウィリアムス(John Williams)によって再評価、1977年に発表されたバリオス作品集『The Great Paraguayan』によって再び広く世に知られることとなった。