注目のイラン出身オランダ在住シンガー、Sevdalizaの新譜
イラン生まれ。5歳の頃に難民としてオランダに移住、2017年に『Ison』でデビューしたシンガーソングライター、セヴダリザ(Sevdaliza)の2ndアルバムとなる新譜『Shabrang』がリリースされ、世界各国で大きな反響を巻き起こしている。
ペルシャ神話に登場する“夜色の純血種”の馬、シャブラン・ベフザド(Shabrang Behzād)に由来するタイトルが冠された本作は、ダークで妖艶な雰囲気のヴォーカルと、アコースティックピアノを軸に、大胆にエレクトロニカで仕立てられた他に類を見ない個性的な作品になっている。楽曲はとても美しいが、どういうわけか、とてつもなく恐ろしくもある。
アルバムの中で彼女が表現しているのは虐待、ナルシシズム、薬物乱用、死、失恋、放棄、絶望、メンタルヘルス、愛、情熱という10の主要なテーマだ。
この社会や、自分の人生がどこか間違った方向に進んでしまっていると感じるとき、このアルバムの音は刺すような痛みを伴って皮膚を突き抜け、骨まで染み込み、心の奥深くにまで入り込んでくる。とても強く、美しく、不思議な音楽だ。
“エレクトロニカ”のジャンルに分類されがちだが、主体はピアノを軸とした生演奏で、打ち込みの要素は少ない。むしろ録音された生演奏に対してエフェクト処理などのポスプロが多いことがこの分類の根拠だと思うが、彼女は本質的にライヴ向きのアーティストだろう。舞台表現も含めた総合的なセルフプロデュースが彼女の魅力でもある。
(8)「Gole Bi Goldoon」はイランの国民的女優/歌手、グーグーシュ(Googoosh)の1974年の楽曲のカヴァー。ここではピアノとストリングスのみの伴奏で郷愁の感情を呼び起こす。
ラストの(16)「Comet」など、ピアノの旋律にはクラシックと中東音楽の影響も感じられる。彼女がどのくらい意識しているかは分からないが、彼女自身のトラウマのようなものもこれらの音楽には見え隠れしているように思える。
経歴も音楽もユニークな才媛、セヴダリザ
セヴダリザ(Sevdaliza, 本名:Sevda Alizadeh, ペルシャ語:سِودا علیزاده)は1987年生まれの歌手/作曲家/プロデューサー。イランのテヘランで生まれ、5歳の時に家族と共に難民としてオランダに移住、以降オランダで育っている。
女性の社会的地位が低く保守的なイランというルーツと、開放的なオランダという環境の大きな違いは、おそらく彼女の人生観に大きな影響を与えているものと思われる。
スポーツの才能にも恵まれ、16歳の頃にバスケットボールの奨学金を得て実家を出、2007年から2010年にかけては女子バスケットボールのオランダ代表チームでも活躍していた。
大学ではコミュニケーションの修士号も取得。オランダ語、ペルシア語、英語、フランス語、ポルトガル語にも堪能だという。
24歳の頃にバスケットボール選手を引退し、音楽の道へ進むことを決意。歌手として2014年にシングル「Clear Air」でデビューした。
これまでに3枚のEPと、今作を含めて2枚のフルアルバム、シングルは20曲以上と、常に刺激的な創作活動で世間を驚かせてきた。
多くの曲は英語で歌っているが、2017年に米国大統領ドナルド・トランプが署名した大統領令13769号に抗議するため、同年彼女にとって初めてのペルシア語の曲「Bebin」を発表している。
2017年にはDazed & Confused Magazineで次世代のクリエイター100人に選出され、近年はファッションモデルとしても活動。2019年4月には初来日公演も行い、現在最も注目される女性アーティストの一人といっても過言ではないだろう。