ギタリスト/ピアニスト/作曲家。イタマール・エレズ
イスラエル出身、現在はカナダのバンクーバーを拠点に活動するギタリスト/ピアニスト/作曲家のイタマール・エレズ(Itamar Erez)の2019年作『Mi Alegría』、これはかなり凄い作品だ。自ら作曲した様々なジャンルを横断する難曲をギターとピアノでそれぞれ卓越した技術で弾きこなす圧倒的な個性。これだけの才能があまり世に知られていないのが不思議なほど。ぜひ、この作品は聴いてみてもらいたい。
今作『Mi Alegría』はゲストにイラン出身のハミン・ホナリ(Hamin Honari, per)、イスラエル出身のイラン・サーラム(Ilan Salem, fl)、ブラジル出身のセルソ・マチャード(Celso Machado, per)を迎えるなど国際色も豊か。全曲イタマール・エレズ作曲だが、明らかにスペインやブラジル、アラブの音楽からの影響も見える。
(1)「Requinto」はイタマール自身の音楽の道を決定付け、彼が長らく研究対象としてきたブラジルの鬼才エグベルト・ジスモンチ(彼もまたイタマール同様に、卓越したギタリストでありピアニスト、そして優れた作曲家だ)が乗り移ったかのようなリズム・メロディーを持った楽曲。
(2)「Samai」はアヴィシャイ・コーエンらに代表される所謂“イスラエルジャズ”の特色を持った曲で、イタマールはピアノを演奏。オリエンタルな叙情を放つジャズ・アンサンブルが堪らない。
(3)「Endless Cycle」からは北欧的、というかほとんどe.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)のようなジャズとクラシック、ロックの折衷を感じ取れる。とても美しい曲だ。
ソロギターで演奏される(4)「Choro Sentimental」はその名の通りブラジルの伝統音楽ショーロを意識したもので、作曲と演奏の両面で素晴らしい音楽に仕上がっており、クラシック音楽の確かな素養が窺える。
タイトル曲の(5)「Mi Alegría」は直訳すればスペイン語で“私の幸せ”だが、愛娘ミア(Mia)に捧げた言葉遊びにもなっている。ここではイタマールはピアノを弾き、イスラエルを代表するフルート奏者イラン・サーラムとジャズで会話する。ブラジルの巨匠エルメート・パスコアールを思わせる旋律が爽快だ。
(7)「Yahli’s Lullaby」は息子ヤーリのために書かれた曲。ここではカナダ出身のクラリネット奏者フランソワ・ハウル(François Houle)がフィーチュアされ、哀愁の漂う中東的な音色を奏でる。
(8)「Shesh」もイスラエルジャズ特有の複雑なリズムとスリリングな展開を持った魅力的な曲で、驚くべき技術を持ったマルチ奏者としてだけでなく、作曲家としての技量の高さを証明する。
“イスラエルのジスモンチ”!? イマタール・エレズ略歴
イタマール・エレズ(Itamar Erez)は1965年イスラエル生まれ。父親は航空会社のパイロットで、クラシック、アバンギャルド、ジャズ、ロックといった音楽作品をテルアビブの自宅に持ち帰っていた。イタマールはそんな父の影響もあり6歳の頃からピアノを始めている。
15歳の頃、ピンク・フロイド(Pink Floyd)やエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の音楽に触発されギターを始め、以来ジャズ、クラシック、フラメンコ、アラブ音楽、アフロブラジル音楽など様々なジャンルを組み合わせた卓越した演奏で世界中のフェスティヴァルなどでその名を広めていった。
2006年に『Desert Song』でデビュー。
2013年にはイスラエルを代表するパーカッショニスト、イシャイ・アフターマン(Yshai Afterman)との共作の『New Dawn』を発売。
通常のクラシックギターやピアノのみならず、アラブ音楽特有の微分音を表現できるように追加のフレットを備えた特殊なギターを演奏するなど、その豊かな音楽性は知られざる傑作として世界中から評価されている。
Itamar Erez – classical guitar, piano
Hamin Honari – percussion
François Houle – clarinet
James Meger – bass
Kevin Romain – drums
Guests :
Celso Machado – drums
Ilan Salem – flute
Dani Benedikt – drums