ペルナンブーコの詩人イゴール・ヂ・カルヴァーリョ新譜、“自己非発見”を巡る哲学的サイケロック

Igor de Carvalho - O Melhor Lugar da Praia

イゴール・ヂ・カルヴァーリョ6年振り新譜

ブラジル・ペルナンブーコ出身のSSW、イゴール・ヂ・カルヴァーリョ(Igor de Carvalho)の3枚目のスタジオアルバム『O Melhor Lugar da Praia』。アルバムはグスタヴォ・ルイス(Gustavo Ruiz)がプロデュースし、その姉であるトゥリッパ・ルイス(Tulipa Ruiz)や、カエターノ・ヴェローゾの息子モレーノ・ヴェローゾ(Moreno Veloso)、歌手ナ・オゼッチ(Ná Ozzetti)、鍵盤奏者ベンジャミン・タウブキン(Benjamim Taubkin)らブラジルを代表する幅広い世代の音楽家たちが参加。エレクトロニックも駆使しながらトロピカリアの系譜から繋がる現代感覚のサイケロック/ロマンティック・ポップを展開する。

イゴールのフルアルバムとしては2019年作『Cabeça Coração』以来、そしてEPも含めれば2020年の『Querido Caos,』以来の待望の作品だ。これまでその哲学的な詩作が高く評価されてきた彼だが、今作はより音楽的な感性を重視して制作したという。

「アルバムの音楽的、概念的な構想の背後にある動きの論理は、考える前に感情が来るというものだった。 このアルバムは、軽やかさと人生の祝福の提案として生まれた。私は、人々が内外の危機を乗り越えるのに役立つ音楽、つまり「良い暮らし」で震える曲を人々に提供したいと思っている。人々に踊ってもらい、考えさせ、存在の肯定的なヴィジョンと結び付けてもらうことが目的なんだ」

Aldeia Nago

(2)「O Melhor Lugar da Praia」

サウンドはこれまでの彼の作品に比べよりポップな印象となったが、かといってその深みが失われたわけでもない。従来の内省的なアプローチから、外に向けて力強い一歩を踏み出した印象が強く、楽観的で肯定的な側面を強調する。彼の言葉の“考えるより先に、感じる”ことの体現だ。

イゴール・ヂ・カルヴァーリョは自己認識を自身の表現の軸としてきたアーティストだが、今作では逆に「自己非発見」(autodesconhecimento)をテーマに新しい語彙や行動を探求する。人々は自分を知ったつもりでいるが、自己を理解しようと考えれば考えるほど、実は自分が思っている以上に知らない、分からないのだと説き、そもそもの「自己」という概念を手放す必要性に辿り着く。タイトル曲である(2)「O Melhor Lugar da Praia」は、“自分に最もふさわしい場所”を抽象的に表現しており、「自己非発見」を通じて心地よい居場所を見出すプロセスを表現している。

(10)「Tá Tudo Aqui Dentro」

Igor de Carvalho 略歴

イゴール・ヂ・カルヴァーリョはブラジル・ペルナンブーコ州都レシーフェ生まれ。幼少期から音楽に囲まれた環境で育ち、特にカエターノ・ヴェローゾやシコ・ブアルキに代表される“トロピカリア”や、ブラジル北東部(ノルデスチ)の豊かな音楽文化、さらにはロス・エルマノス(Los Hermanos)などのオルタナ・ロックに影響を受けた。

シーンに広く知られるようになってきたのは2ndアルバム『Cabeça Coração』(2019年)頃からで、その詩情に満ちた独自の世界観はここ日本でも高く評価された。

ナ・オゼッチをフィーチュアした(5)「Sorte」

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