アラブ/アフリカ/ユダヤの文化を繋ぐ歌姫、SHIRAN
イスラエルのテルアビブで活動するイエメン系歌手シラン・アヴラハム(Shiran Avraham, アーティスト名:S H I R A N)は、現行の中東音楽の広い範囲を繋ぐキーマンのひとりだ。
彼女の2020年作『Glsah Sanaanea with Shiran』は、アラビアン・クラブミュージックを意識した2018年のデビュー作『S H I R a N』からコンセプトを変え、アンプラグドのウードやカーヌーンといった伝統楽器をフィーチュアし、よりルーツを前面に打ち出した作品になっている。
シラン・アヴラハムの祖母はユダヤ人への弾圧が起きていたアラビア半島の国イエメンにおいて、1948年〜1950年にかけて秘密裏に行われた“魔法の絨毯作戦”でイスラエルに移民した5万人のイエメン・ユダヤ人のうちのひとりだった。
アフリカとアラビア、そしてユダヤの文化の交差点で育った彼女の音楽は独特で、比重としてはアラブ音楽の割合が相当強いものになっている。前作からの変貌ぶりに驚く人もいるかもしれないが、より伝統的な歌唱に回帰したことでダイナミックさを増したようにも聴こえる。
シラン・アヴラハムは幼少期から歌うことが大好きな少女だった。
高校時代、そして兵役時代と常にあらゆる種類のアンサンブルに参加していたようだ。
音楽プロデューサーである夫ロン・バカル(Ron Bakal)とは音楽学校の学生時代に知り合い、2012年から共に音楽を作り始めるようになった。彼女にとってイエメンからの移民である祖母の影響は大きく、祖母がよく聴いていたアラブ音楽からは多大な影響を受けたという。
彼女は実際にイエメンには行ったことがない(イスラエルのパスポートでイエメンに入国することはできない)。そしてイエメンでは公の場では女性の権利は制限されており、女性が歌うことが許されていない。
だからこそ、この困難は彼女が歌う目的であり続けている。イエメンのファンからは、早く来訪して歌ってほしいというフィードバックがいくつも彼女のもとに届いている。でもそれは今は叶わない。
いつか、祖母の故郷イエメンで歌えるようになること。それがシラン・アヴラハムの夢なのだ。
彼女の3rdアルバムはダンスホール、ヒップホップ、アラビア語が混ざり合ったものになるとのことだ。シラン・アヴラハムの唯一無二の素晴らしい歌声は混沌とした中東の国々の文化の架け橋になるかもしれない。