多様性を秘めた注目のバンド、ブラック・カントリー・ニュー・ロード
既に話題沸騰、英ロンドンの注目のバンド、ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)の待望のデビューアルバム『For the First Time』が遂にリリースされた。ライヴでの構成を意識したという曲順の本作は文字通りのインスト曲(1)「Instrumental」で幕を開ける。四拍子のリズムの楽曲だが、キーボードだけが終始三拍子のシーケンスを刻む。UKロックの伝統芸ともいえるギターサウンドがあるかと思えば、次には異国情緒溢れるヴァイオリンにジャズサックスが絡むそのサウンドは、現代のバンドらしい多様なバックグラウンドを感じさせる。
Black Country, New Road のメンバーはケンブリッジ周辺出身の男女7人組。
この変わったバンド名は、Wikipediaジェネレーターによって生成されたランダムな文字列から見出されたとのこと。
バンドのサウンドを一聴して特に注目に値するのはジャズ、ロック、オルタナティヴ・ロック、パンクといった要素の中に混ざり込むユダヤの音楽・クレズマーの要素で、その独特でエキゾチックなメロディーは特に(6)「Opus」にかなり色濃く現れている。これはバンドのヴィオリン奏者であるジョージア・エラリー(Georgia Ellery)がかつてクレズマーのバンドをやっていたそうで、おそらくは彼女が持ち込んだものだろう。
バンドの2枚目のシングルである(4)「Sunglasses」は約10分におよぶ大作で、曲中で自在に変化する表情が魅力的な一曲だ。中間部のサックス奏者ルイス・エヴァンス(Lewis Evans)によるフリージャズ的な気迫あるブロウも良い。
アルバムの楽曲には若者らしい不安と怒りが充満する。彼らのリアルな感情はフロントマンであるイザーク・ウッド(Isaac Wood)のヴォーカルにも、バンドサウンドにもしっかりと現れているが、そこには苛烈な暴力性だけでなく、均衡を保とうとする冷静さと緻密さも同居する。この優れたバランス感覚こそが彼らの最大の魅力なのかもしれない。
既にロンドンのロックシーンを席巻するブラック・ミディ(black midi)とも頻繁にステージを共にするなど、豊かなロンドンの音楽シーンの中でも頭ひとつ抜き出ている感のあるBlack Country, New Road。これまでも文化的多様性を秘めたロックバンドは多数あったが、いずれも世界的スターにはあと一歩のところで届かずにいる感がある。UKシーンから大きな注目を浴びて飛び出てきた彼らがどこまで突き抜けていくか、とても楽しみだ。
Black Country, New Road :
Isaac Wood – vocals, guitar
May Kershaw – keyboard
Charlie Wayne – drums
Luke Mark – guitar
Georgia Ellery – violin
Lewis Evans – saxophone
Tyler Hyde – bass