西アフリカ音楽を探求し続けたベン・エイロンの集大成
独自のハイブリッドなアフリカン・パーカッション奏法を確立し、セネガルなど西アフリカで人気を確立するイスラエル出身のパーカッション/ハラム奏者のベン・エイロン(Ben Aylon)の集大成的なアルバム『Xalam』がリリースされた。変幻自在で複合的なリズムの中でいくつもの打楽器が折り重なり、弦のバズ音も魅力的なプリミティヴなハラムの響きも素晴らしい傑作だ。
タイトルの「ハラム」とはセネガルの伝統的な弦楽器で、ベン・エイロンは本作ではパーカッションのほかに10年ほど前に購入したというこのハラムも演奏している。
制作には7年間を費やしており、アフリカ音楽のレジェンドから新星まで、4曲でフィーチュアされている歌手による歌も絶品。ワールド・ミュージックの楽しさが凝縮されたような内容に心が踊る。
西アフリカ音楽のレジェンドも参加
この作品には2013年から少しずつ録音されてきた音源が収録されている。
2021年にようやくひとつのアルバムとしてリリースに至ったが、リリースまでの間に、アルバムの偉大な貢献者2名が亡くなってしまっている。
一人は(1)「Xalam」でフィーチュアされているセネガルの民族楽器サバール(sabar)のレジェンドである打楽器奏者ドゥドゥ・ンディアイェ・ローズ(Doudou Ndiaye Rose, 1930 – 2015)。セネガル国歌の作曲者でもある彼は現代的なアプローチでセネガルの打楽器アンサンブルの発展を支え、その文化的遺産はベン・エイロンにもしっかりと受け継がれている。
もう一人は(6)「Alafia」を力強く歌うマリの女性歌手ハイラ・アービー(Khaira Arby, 1959 – 2018)だ。彼女は歴史的に女性が抑圧されてきた社会の中で常に女性の権利を歌い、西アフリカの文化的発展に多大な功績を残してきた。
この二人は年は違うがいずれも8月19日に亡くなっており、その日はベン・エイロンの誕生日でもあった。
ベン・エイロン、アフリカン・パーカッションの革命児
イスラエル生まれの打楽器奏者ベン・エイロン(Ben Aylon)はアフリカの音楽に惹かれ、2008年にセネガルに移り、ドゥドゥ・ンディアイェ・ローズの息子であるアリー・ンディアイェ・ローズ(Aly Ndiaye Rose)に数年間師事するなどし伝統的なサバール・ドラムを習得した。この間に十数種類ものアフリカの打楽器をドラムセットのように並べ同時に演奏するという革新的なスタイル(“ニュー・アフリカン・ドラミング”と呼ばれている)を確立し、西アフリカの地で大きな成功を収めている。