謎の鍵盤楽器でジミヘンを演奏する男が話題
ネットでこんな動画が話題になっています。
キーボードを前にし、ジミ・ヘンドリックスの名曲「Voodoo Child」の演奏を始める男…
いささか乱暴に鍵盤を叩き始めたと思ったら…なんと楽器の上についているレバーを操作し、エレキギターのような音を出し始めました!
音は完全にエレキギターのそれで、ギュインギュインと激しい演奏をする姿はまるで鍵盤楽器なのにジミ・ヘンドリックスの魂が乗り移っているかのよう…とても鍵盤を演奏しているとは信じられない光景です。
でもよく見ると時々楽器が壊れてしまうのではないかという場面もあり、音はもちろん、いろんな意味でビジュアル的な衝撃もあります。
この鍵盤楽器、構造はどうなってるの!?
演奏しているのはロッキー・ドリー(Lachy Doley)というオーストラリアのシンガーソングライター。
1978年生まれで、この楽器とハモンドオルガンをメインに演奏しているアーティストです。1995年からプロとして活動しており、これまでにバンドやソロで何枚かのアルバムをリリースしているとのこと。
この動画で演奏している謎の鍵盤楽器はワーミー・クラヴィネット(Whammy Clavinet)と名付けられています。
実はこれは市販楽器ではなく改造された楽器です。
なんとも不思議で見たこともないような楽器ですが、気になる実際の内部構造は本人が動画で解説しています。
もとになっているのはアコーディオンやハーモニカの製造で有名なドイツの楽器メーカー、Horner(ホーナー)のClavinet D6という、一般的にクラヴィネットと呼ばれる鍵盤楽器のヴィンテージ名器です。
Lachy Doley氏はこのヴィンテージの楽器を自ら改造して使っているようです。
そもそもクラヴィネットとは?
クラヴィネットは1960年代に登場し、ファンクやソウル、R&Bなどのサウンドに大きな影響を与えました。
その独特の音色はスティーヴィー・ワンダーの名曲「Superstition」(迷信)など、この時代の多くの楽曲の録音で聴くことができます。
この楽器はいわゆる「シンセサイザー」、つまり内部で電子的に音を合成して発音している楽器ではありません。
クラヴィネットの内部にはピアノと同じように各鍵盤に対応した弦が張られており、鍵盤を押すとその下にあるハンマーが弦を金属フレームに叩きつけ、その振動を電磁式のピックアップが拾い電気信号に変え、アンプを通してスピーカーから再生される仕組み。つまり、弦の振動をピックアップが拾う、というところからはエレキギターと同じ原理なのです。
このような原理の鍵盤楽器は総称して「電気ピアノ」(エレクトリック・ピアノ)と呼ばれており、クラヴィネットの他には「ローズピアノ」「ウーリッツァー」といった楽器が有名です。
ロッキー・ドリーはクラヴィネットにアームを取り付けピッチベンドを可能とした
もちろんオリジナルのクラヴィネットはピアノと同じように弦が固定されているため、普通はピッチベンド(発音した音の高さを変えること)はできません。
エレキギター奏者が、弦を弾いたあとにボディについているアームを操作して「ギュイーン!」と音高を変えているのを見たことがあるかと思います。あれは、アーム操作によって弦を引っ張ることで音高を変えているのです。
Lachy Doley氏は、そんなエレキギターのトレモロアーム(ビブラートアーム)の原理をそのままクラヴィネットで再現してしまったのです。
Lachy Doley氏のワーミー・クラヴィネットは弦の末端が金属の筒に巻き付けられており、アームを押すと金属筒が回ることで弦が引っ張られ、音が高くなるという仕組みとなっているわけです。
ただ、これだけ激しくベンドすると、チューニングが狂いやすくメンテナンスが大変だろうな…とは思いました。
ちなみに、現在市販されている鍵盤型シンセサイザーの多くにはピッチベンドホイールというものがついており、ワーミー・クラヴィネットのような大袈裟なアーム操作を行わなくてもホイールの操作によって簡単にピッチベンドをかけることが可能となっています。